17
彩が幹部室に呼ばれそちらに足を向けてからしばらく事務課には微妙な空気が流れていた。彩はなぜイリアに呼ばれたのか。徹を呼んでいたはずの放送がいきなり彩の名前を出したのだから、驚きと、呼ばれた理由はどうであれ可哀想だと思われていた。
「彩!彩!彩!?」
そして焦った様子で煩く現れたのは宵千だ。息を切らし居ない彩の姿を探してキョロキョロしている様は怪しい。
そわそわしてうざったかったのか、マリーは宵千に嫌そうな顔を向ける。
「うるさい。みんな心配してるんだからちょっと黙って」
「なんであの人が彩を呼ぶんだよ!?」
「あたしたちだって知らないわよっ、だから黙ってって」
「なんでお前はそんなに落ちついていられんだよ!?」
「彩遅いわね」
「っ!俺ちょっとそこらへん見てくる」
「…相変わらずね」
夢を見た。
頭痛が消えスッキリした気分だ。夢の中だからだろうか。立っていても辛くない。久しぶりに体を動かしたくて数歩進むと、懐かしいくて望んだ声が俺の名前を呼んだ。
「徹!」
紛れもなく彩の声だ。
ちゃんと聞きたくて耳を傾けるが、彩が俺の名前を呼ぶのしか聞き取れない。
「ーー、徹!、ーっーーが、ー…ゃー」
これは夢だ。
手を伸ばし、ずっと口を動かしてる彩の頬に触れた。初めて触ったそれはやわらかくて、すべすべしていて手を離したくないぐらいだ。
指先に熱を感じる。
「っ!ーーな、ーぉーーー、っ、ーー」
それらがどうしようもないぐらい愛しく感じた。こんな感覚は久しぶりだ。ずっと昔にそれをなくしてそれっきりだった。できることならずっと感じていたい。
彩が俺の腕を掴んで何か伝えようとしている。だけど何言ってるかやっぱり聞き取れない。
「彩、彩」
彩の首の後ろに手を添えた。腰にも手を回して体を近づける。彩の細い体を抱きしめた。やんわり伝わってくる体温を感じるだけでも満たされていく。
うなじに顔を埋め彩の香りを嗅いだ。鼻腔いっぱいに広がるそれは彩が側にいることを感じて、言い表せない気持になった。彩が側に居ると体が甘く痺れる。幸せが身体中を占めすぎて辛い。
「彩……好きだ」
そのポロリと溢れた言葉があまりにも自然すぎて驚いた。無意識な自分の言葉は混濁した意識を一掃してくれる。
そうか、これは愛情なのか。彩に対する、この押さえきれない感情を、ようやく知ることができた。
この感情が引き起こすのは全身の鳥肌と、沸き上がる欲。
遠くで扉の閉まる音がした。
次の瞬間はっと目が覚める。驚いた。立ったまま寝ていたみたいだ。しかも玄関口で。
頭痛は消えていた。
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