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徹が事務課に来なくなってからいつも真面目に仕事をする彩がおかしかった。ぼーっとして常に上の空なのだ。たまに反応したと思えばそれは徹に関することで、マリーや先輩たちには彩がいつも通りじゃないことの原因が徹だと直ぐにわかった。
しかし少なからず彩をこうさせたのはマリーや先輩たちも関係があるとまだマリーしか気がついていない。
「彩ちゃん、この書類いつものファイルに綴っといてくれる?」
「………」
「彩ちゃん?」
「…………」
「おーい?」
「!っはい!何ですか?」
「……ごめん、やっぱり何でもない」
そうして彩はまたぼーっと、し始めた。
しばらくして彩は、はぁとため息をついた。そんな彩のため息にあわわと声を漏らすマリー。この状況はマリー自身が引き起こしたと罪悪感にさいなまれているのだ。
そしてなんともタイミングが悪い音声放送が鳴り響いた。
《神庭崎 徹、今すぐ私のところに来なさい》
それに彩はビクリと反応した。マリーが、げっと顔をひきつらせる。
「この放送もう3回目じゃない?携帯に連絡すればいいのに」
「だね…でもそんなことよりあのふたりが気になるんだけど…」
「うん……なんで来なくなったの?」
「神庭崎さん?なんでだろ。この前まで事務課に居ても違和感ないくらいだったのに」
「喧嘩した、とか?」
「え!?あの神庭崎さんと彩ちゃんだよ?喧嘩すんの?」
「違うから……」
そこの会話に入ってきたのは元気が無く落ち込んでいるマリーだった。幽霊が来たかのようだ。
「うわっ、マリー!」
「その嫌なものが来たみたいなリアクションやめてよ」
「ごめん雰囲気が怖くてつい」
「あたしのせいなんです」
「わっマリーが敬語!」
「け、敬語…だと…!?」
あのマリーの敬語はただならぬ緊張感をもたらした。先輩たちはゴクリと喉を鳴らしてマリーの言葉に聞き入る。
「すみません。あたしが、徹は彩に迷惑をかけてるって、彩を守るために爆弾の奴らにキレて潰したって言ってしまって、それを彩は勘違いして、自分が徹に迷惑をかけてるって思い込んでるんです」
「……」
「そしたら彩、徹に迷惑かけてるからもう関わらないようにするって徹に言っちゃったんですぅぅうわぁぁあぁん!」
「………」
先輩達はみんな、その事実にもマリーにも、リアクションをとることはできなかった。
《神庭崎!いい加減にしなさい今すぐ私のところに来なさい》
「またこの放送…っ!私に死ねと言っているんですか!?」
「ちょ、マリー!落ちついて!」
《神庭崎 とお…っ、事務課の今生 彩。事務課の今生 彩。幹部室に来なさい》
「「え?」」
最後に彩の声を聞いたのはいつだっただろうか、思いだそうとしても頭痛が邪魔をしてまともに思い出せやしない。
「…っ、って…」
思わず口から苦痛の声が漏れ、ついに呼吸さえまともに出来なくなった。頭をガンガンと内側から打ち付けられ身を縮めた。そんな状態に追い討ちをかけるかのように携帯電話が鳴って、耳障りの音がハンマーのように頭に攻撃をしかけてきた。
我慢できずに掴んだ携帯電話を壁へ投げつける。酷い音を立てて着信音は止まりまた静けさが戻ってきた。
「は、ぁ…」
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