8 バタンと扉の閉まる音が聞こえた。 「……ん…?」 その音で彩は目が覚める。ベッドの上にいるが、いつもと違う感触に違和感を感じ周りを見渡した。広い部屋に大きなベッド、それは徹の家で見たものだ。そして漸く、爆発の後の記憶が途切れたことから気絶したことに気づく。 「あ、気がついた?」 「徹…」 寝室の扉から現れたのは徹で、雰囲気が少しキツいように彩は感じた。 「大丈夫?どこも怪我してないけど、耳とか痛かったりする?」 徹が心配そうに彩へ近づいていく。いろいろ質問されるがそれよりも彩は気になることがあった。 「徹…?」 「ん?何」 「どうしたの?」 徹の雰囲気がいつもと違うことが気にかかってしょうがなかった。 「なんか、イライラしてる?」 徹は笑うがそんなことないようには彩には見えなかった。 「今イリアに呼ばれて仕事任されたから不機嫌なのかもな」 彩が目が覚めるきっかけとなった扉の閉まる音は、徹がイリアに呼び出され帰ってきたときによるものだった。 「イリアって……幹部のイリアさんッ!!?」 平然と肯定する徹に更に驚かされる。幹部のイリアと言えば【illwill】の頭そのものだ。厳しく、嫌味ったらしいことで有名で反抗しようとする者は【ill will】では一人もいない。敬意と恐怖を踏まえてみんな“イリアさん”と呼ぶ。 徹は呼び捨てにした上、イリアから直々に仕事を貰ったのだから驚く他無いだろう。イリアが直接渡す仕事といえばLv.壹では荷が重く不可能だとも言われ、Lv.零にしかできないという伝説だ。 「ん。で、その仕事が今からなんだよ。てかもう9時前だけど」 「9時前って、え゛っ!?遅刻!」 「彩…行くの?」 「当たり前じゃん!洗面所借りるから!」 寝起きとは思えない素晴らしく素早い彩の動き。寝室を出て、洗面所へ向かう中、ちらりと玄関が見えた。 爆発の後、そこは焼け跡で黒かったはずだ。玄関があまりにも普通で綺麗なものだから、爆発が嘘だったかのように錯覚してしまう。だが爆発は確かにあった。 しかし時計が目に入り本気で遅刻すると急ぐせいで、徹の家を出るころにはすっかり忘れてしまっていた。 彩が寝室を出た後、徹の目からは珍しくやる気が色づき手に力を込めた。 「そうか…」 それは何かから何かを守ろうと必死な表情だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |