2 徹にとって報告書を出すというのはとてつもなく面倒くさいのだ。だから出したり出さなかったりと回りからすれば信じられないことをする。報告書を出さないと報酬は貰えないのだから。 「ほら、次の人いるから」 「ねぇ、」 「?」 「名前は?」 突発な質問に首を傾げながら胸元のネームプレートを指差す。 「今生 彩」 「ふーん……ねぇ今生 彩さん、報告書、代わりにしてくれない?」 目を見開いた彩の手からポロリとIDが落ちた。 「苦手なんだよ」 「ちょ、え?マジで言って、え?」 「今度ご飯奢るから」 「いや、そういうことじゃない、俺は忙しいし、報告書は仕事した奴にしかできないだろ!」 「えー……って、?」 呆れた彩がIDを徹へ投げようとしたとき、徹が彩の身体をマジマジと見つめてきたのでその動きを止めた。 「彩って、男?」 「うん、って、お、おお女だと、思った……の、か!?」 パキッ 「え!?」 「あ…」 驚きと怒りを表した彩の手にあったIDはひしゃげて手中に収まっていた。 「いや、事務課に男、珍しいなって思って確認したかったから……うん、まぁ女に見えなくもないよな」 「ふざけんな!男だ!ってIDが…」 「あーあ」 「えー、えぇー……」 彩は折れたIDと徹を交互に見つめて、汗を流していた。IDが折れたことは中身のデータも消えたということだ。 「ごめん……バックアップは?」 「なにそれ?」 「うぅっ…ほんとごめん……」 項垂れて見るからに落ち込みどんよりしている。そして、あーうー言いながら独り言を呟いていた。 「IDは再発行すればいいけど…中身が……あぁ……報酬、弁償します」 酷く元気のない声を出し徹に再度頭を下げた。 「報告書書かなくていいんだよな?」 「え?あ、うん……ごめん弁償するから…」 「別にいいよ。また仕事すればいいだけだし」 「え?」 「ID再発行するんだろ?」 徹がその整った顔で軽く微笑んだ。それを見た彩の霞んでいた表情が和らいでいくのが目に見えて分かる。 「うん…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |