14
浮かれて中庭へ入った矢先、その光景は葎を一気に萎えさせる。
――苦しんでいる彩ちゃんはいる。
「なにこれ」
人と状況はそれだけで充分なはずなのに、くーたんと、死にかけてる【ROLL】の幹部、そして知らない男の4人が中庭で予想外な展開を繰り広げていた。
「邪魔だなぁ……」
うーん…と眉をしかめて、また歩き出す。目の前のことで精一杯の宵千とくーたんは近づく葎に気がつかない。
「でも、徹はまだみたいだね。それは、よかった、よかった」
近づいたことでより一層よく聞こえる葎の声にくーたんは涙で汚した顔を上げる。
「八重さ、ん……?」
なぜここに、それを言う前に自分の言葉で遮る葎。
「だから、邪魔だって」
ニッコリ笑った葎は黒髪を揺らす。
左足に体重をかけ、右足を前方へ軌道にかけて振る。それは素早く立ち上がり反応したくーたんの首元へ見事にクリーンヒットし、くーたんの身体を吹き飛ばしてしまう。
「うん、君もー」
くーたんへの攻撃からほぼインターバル無しに宵千へ攻撃を仕掛ける。
貼り付けた笑顔は全く乱れず、楽しそうなのは変わりない。
危険を察知し臨戦体制を整えた。葎の攻撃を受け流し、反撃に拳に体重を乗せて打ち込む。それを易々と避けた葎は、小回りの勢いを付け宵千の背中目掛け蹴りを食らわす。
踏み込みが浅かったせいか、前によろけただけでなんとか踏ん張り、そのまま前転をして葎と距離を開ける。
振り返り見上げたが既に遅く、眼前には葎の脚があり上へ宙を動く。そのつま先は宵千の顎を捕らえた。
バサッと宵千は背中から倒れ気を失ってしまった。
「……これで主役だけだよ、彩ちゃん」
葎の足元には痛みに体を捻る彩が呻いていた。
「もうちょっと。あと少しだから…」
乱暴な足音が廊下から響いて中庭へ伝う。直ぐに険しい表情の徹が中庭へ現れる。
「遅いよ徹。ほら、彩ちゃんこんなに苦しんでるよ?ま、俺のせいだけどね」
痛々しく苦しむ彩を優しく撫でる葎。それは徹の感に触ることなんて目に見えていたのに、葎はあえて自分の思い通りに行動した。
「彩にっ!!触れんじゃねぇえッよォッ!!!」
「ハハッ!いいねぇッ、徹ッ!」
葎が見たことのない本気の徹は全身を脈動させ集中させた。
「俺もやっとこの世界とおさらば出来るんだ。本気出させてもらうよ」
そう言った葎がとても悲しそうなのは、うやむやな自分の感情に対して吹っ切れないからだった。
――to be continued――
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