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【side白木 宵千】
【46】街に彩はいる。命は無事だ。ほっとするのもつかの間、ビジョンがよく思い出される。
……このビジョンは昔からよく見た。俺が知っている奴の身に危険が迫ると、その映像が同時進行で見えるのだ。
昔は彩が危ない目に会うとよく見ていた。黒いフィルターに線のように現れる映像。それにいつもヒヤヒヤさせられた。
再び思い出される幹部室で見たビジョン。
「彰の野郎……っ!」
煮えくり返る腹を必死に抑え【46】へ向けて走り続けた。
彰とは昔から仕事仲間で、いい待遇をしてもらった恩があるが、彩に関係あるなら話は別だ。
しかも彩の上に乗り襲っているビジョンだなんて。
彩が危ない。彰を八つ裂きにしないと気が収まらない。
それ一心で走っていたら携帯電話が鳴った。このくそ忙しいときに……。
「はい?」
『こんちはぁー、絶対的な情報力・露影 彰情報屋でぇーす!』
彰の声が耳に入るなり頭に血が昇って罵声を散らした。
「くそてめぇ!彩から離れろっ!」
『あれぇー?そんな口聞いていーのかなぁ?彩の行方知りたくないのぉ?』
ニタニタと笑う彰の顔が簡単に浮かび上がる。イライラが溜まる一方だ。
「チッ、いまてめぇとそこに居るんだろ!?っ、って彩って呼んでんじゃねぇよっ!」
『ざぁんねぇーん!全然違ぁーう!ってか白木 宵千へ彩の名前呼ぶのにぃ許可がなぜいるのかぁ理解不能ー』
「あ゛?」
『まぁ俺優しいから教えちゃうっ!彩はぁ今【ROLL】に向かいましたぁ』
初めから教えるために電話したんだろ。
「【ROLL】……?なんでだ?」
『彩の愛しのダーリンを止めにぃ』
あそこで神庭崎が暴れまくってヤバイことは知っている。
そもそも彩を探したのは私情が一番の理由だが、それに加え女王様・イリアが、【ROLL】が手遅れになる前に青二才・徹を止めないと、と神庭崎を止められる唯一の存在の彩を探すよう依頼されたからだ。
『ちなみにぃ俺が見たのはぁ……』
俺のこの特殊な能力は、彰にも似たようなものがあるらしい。
彰は未来が見えるそうだ。
彰から雇われて仕事を始めたばかりのころ、彰は俺のこの異様な能力に気づいていた。そしてある日これを突き詰められると同時に、彰自身も異常があると打ち明けられた。
未来が見れるなんて異常すぎるものに初めは信じられなかったが、彰が言った未来ってのが可笑しいほど当たっていた。だからその能力を信じるしかなかった。
『…………あのさぁ……白木 宵千ぃ、お願いがあるんだけど?』
「あ゛?ちんたら喋んな」
『一生のお願い』
「一気に喋れよ」
『うーーん……彩がぁくーたんと一緒に行ったのぉ』
くーたんとはたしか義理の弟だったな。
『んでねぇ、彩の左側をくーたん、右側を白木 宵千にぃ守って欲しいのぉ、絶対。彩の右側からぁ絶対絶対絶対離れないでぇ?』
くぐもった、喉が絞まるような声が携帯の向こうから聞こえる。
「あっ、たりまえだろ!彩を守るのは俺だっ!」
『うん、約束だよぉ?んじゃよろしくぅー。彩たちは【ROLL】に居るはずだからさぁ』
ブチッ――
向こうから一方的に切られ、一定の機械音が鳴り響く。
「?」
いつものうるさいぐらいの声が、違った様に聞こえたが、気には止めなかった。
「ごめんねぇ、白木 宵千ぃ…………運が良ければまたぁ、仕事しようね……」
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