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「おい、お前」

目の前の誰かに呼ばれて立ち止まった。

足が重く、回りを見渡せないほど霞む視界。息を吸えば千切れそうなほど痛む喉に眉を寄せる。

「許可証は?それがないと通さない」

輪郭を捕らえない目を凝らして前を見れば、漆黒の鉄扉が固く閉ざされていた。

「はっ、は、っ……ゲー、ト?」

ようやく理解する。ここは3日前に来た【ill will】と【46】を隔てるゲートだ。

「無いなら帰れ」

頭の中をチカチカと走る白い光。その奥に淡い映像が浮かび上がる。フラッシュバックだ。

神庭崎 徹と出会ったとき。白木 宵千の昔話。露影さんのことば。

次第に暗くなっていく頭の中に残像として残った映像は露影さんだけだった。妙な安心感が溢れていく。

「あ……っ、露影、さん」

「なんだ?」

「露影さん、会わないと……!露影さんに、っ……」

目の前の男・門番は俺の腕を加減無く掴み強引に引っ張った。

「お前どこの者だ?何を企んでいる!?」

言葉に力が入って俺を怒鳴り散らす。回らない頭だが、俺が失態を起こした事に気づく。
つまり、この腕を掴んできた男の人は俺が露影さんを潰しに来たのだと思い始めた。だけど俺が正面から正々堂々と現れたのだから何を企んでるのかわからない―――と勘違いをしたらしい。
露影さんの名前を出さず許可書を持っていれば、この門番の人が腰に携えていたナイフを俺へ振り上げなかったのに。

怪しい奴は何かアクションを起こす前に消せ、がこの世界の常識だ。

光る矛先に目も閉じれなかった。


ギィ……


「ちょぉっと待ったぁ」


動きが止まり、腕力が緩んでいく門番。
その隙にばっと離れた。


「誰がぁ、殺せって言ったかなぁ?」

門番を挟んで向こうの黒い鉄扉が開き、人影が見える。

銀色の髪。それは魅いってしまう美しさ。間違いなく露影さんだ。

「その子からぁ……離れようねぇ?」

怒りの含んだ様な低い声に門番だけじゃなく俺もビクッと揺れてしまう。
門番を乱暴に押し退けると俺の手を握る。

「そろそろぉ来るころだと思ったよー」

「つ……露影、さん……」

ドッと溢れる安心感に足が笑ってしまう。崩れ落ちるその時、露影さんが抱きすくめてくれたお陰でなんとか立っていられた。

「うんー、がんばったねぇ。偉いえらーい」

がんばったね、露影さんがなぜそう言ったのか。もしかして今に至る経緯を知っているのか。でもそうだとしてもなぜ知っているのか。

疑問が頭の中を取り巻くなか、露影さんは俺を抱き上げた…………そうお姫さま抱っこだ。

「えっ!?」

「静かにねぇ。暴れるなら落としちゃうかもよぉ?というかぁ寝なよぉ。大丈夫だからさぁー。ね?」

お姫さま抱っこをされて寝れるわけもない、と思ったのに……露影さんの雰囲気があんまりにも安心感を誘う。それとゆっくりと歩き出した振動で5分もせずに意識は落ちていった。

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あきゅろす。
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