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Wind of Adventure
1-2
「うおっ!」
穴から抜け出した後は、部屋が戦場へと変化した。どこかに残っていた魔物たちが、一斉にクリス目がけて突進してきたのである。剣を右に左に振りかぶり、道を切り開こうとする。しかしその隙間を埋めるかのように次々とやってくる。倒された魔物は味方に引きずられた後、その場で灰と化す。どうやら、魔物は倒されると灰となって消滅するようである。

「全く……邪魔だよ!」
クリスが次々とその腕で薙ぎ払うが、一向に数が減らない。狭い部屋に多数の魔物がなだれ込み、自由に動き回れるスペースが確保出来ない。しかし、身動きが取れないのはそれだけではないようだ。
「フフフ……そうやって、相手に集中しているとどうなることだか……」
不敵な笑みを浮かべた相手が、嫌味を込めた声を挙げる。すると魔物の隊列が一斉に動き、クリスを無視してその背後の者に突進していく。
「くそっ……!」
クリスが慌てて眼前の敵を斬り捨てた後、すぐに後ろに向かって振りかざす。そこには、傷だらけで動くこともままならないアルファンスが無防備に腰掛けている。

……こんな状況が、何回も続いている。穴から脱出しようとしたとき、あの男が現れた。こちらが穴から出た途端、魔物たちを指示して攻撃を加え始めたのである。剣で防御しつつも動ける場を確保するために相手を剣術でふっ飛ばし、アルファンスを守りながら穴から出てきたところだった。

気にかかるのは、相手のほうだ。黒い短髪に少々みずほらしい服。ぱっと見は、職を失い住むところもない人間である。しかし、クリスにはその男の異質さに気付く。間違いなく人であるが、その内部から感じられるのは魔物の気配。真相を知ろうにも、この状況下では無理である。
「スマナイ……オレの所為でこんな目にあって……」
「気にすんな!」
弱々しい声を上げるアルファンスに対してクリスはやや強い調子で声をかける。その間にも、次々と敵は襲いかかってくる。少しずつ前進してはいるが、反比例してクリスの剣の動きが小降りになっていた。クリスが前進するよりも敵の進みが大きく、距離が狭まってきていたのであった。

「どうだ!間合いを詰められては、お得意の剣術も役に立たんだろう!!」

早くも勝ちを見込んだ敵の高笑いが聞こえてくる。しかし、クリスは諦めていない。その目は、まだ相手を睨んでいる。
「オレの力は、剣術だけじゃねーよ」
クリスがそう言うと、両の眼を伏せた。暫くは何も起きなかったが、空気がクリスの周りで次々と渦巻いていく。違和感を敵が察知しても、時すでに遅し。窓が大きく振動したあと、クリスが目を見開くと大きな空気の流れによって目の前にいた魔物たちは一斉に吹き飛び、床に頭を垂れた。その状況にアルファンスは驚きを隠せなかったが、それよりも体の痛みが大きいようで苦痛の色が強い。一方で、敵は笑みを浮かべていた。

「フフ……さすがだな。場慣れしているな、小僧」
「まあね。久々に手応えある相手なもんで、ちょっとだけ本気出させてもらったよ」
剣を再び握りしめ、相手を見つめる。そこには、先程アルファンスに語りかけた時の表情は全く残っていなかった。
「だが、私の部下がこれですべてだと思ってもらっては困る」
男が指を鳴らす。すると死んでいない大量の魔物がクリスたちの周りに立ちはだかった。剣を振りかぶるスペースすら与えないよう、さらに間を詰めてくる。黒い壁が、クリスとアルファンスの前後を囲い始めた。
「さっきの一撃が甘かったか……」

痛々しい傷が走っていたが魔物にはとってそれは大したことではない、と言わんばかりにジリジリと迫る。一歩ずつ、床の軋みとともに恐怖が辺りを包む。

「狙いはオレだ……アンタだけでも逃げてくれ……」
アルファンスの、痛みをこらえた声が届く。狭い空間に、二人は背中合わせになった。

「逃げるわけにはいかないさ……ここでオレが逃げたら、傷だらけの君を誰が守ってやるんだよ?」

クリスの声に、アルファンスは苦い笑みを浮かべる。しかし、顔に浮かんだ笑みはすぐに苦痛にゆがんでしまう。

「さあ、そろそろ永遠の眠りについてもらおう。アルファンス……そして若き剣士よ!」
男が声を発し、魔物たちに合図が送る。それに合わせるかのように、二人の頭上に魔物たちの爪や牙が降りかかる。


背中合わせになっている相手が、そして己が血に染まる姿は見たくない。……二人は、強く目を閉じた。

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あきゅろす。
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