[通常モード] [URL送信]

Wind of Adventure
休息-6
「ちょっと見ないうちに、でかくなったもんだ。ホント、成長は早いねぇ」
カウンター横の挽いたコーヒー豆を、来客用のカップの中に入れる。カーテンで仕切られた場所に入ると、奥から水が流れる音が聞こえだす。湯を沸かす準備を始めているようだ。
「最後に会ったの……いつだったっけ?」
クリスの問いかけに、布を一枚挟んだ向こう側に居る叔父が唸っている。唸る時間が長く、クリス自身も何とかその間に思い出そうとするが………小さい頃、ということしか浮かばない。
「私が記憶している限りでは、クリ坊が10歳位だったかな?あんなチビ助が、こんなになるとはね……」
仕切りから出てきた叔父が、まじまじとクリスを見回す。改めて彼とカウンター越しではあるが並ぶと、目線はややクリスのほうが高めであることが分かる。
「うーんと……そんなに前だったんだな。そりゃ、ちょっと印象が変わるわけだ」
等身が上がり、叔父の顔をしっかりと見ることが出来たクリス。あの頃は、思いっきり見上げなければ見えなかった人物が、今ではほんの少し眼の高さを追い越してしまっていた。父の顔立ちをもう少しイケメン寄りに、エラも出ていない輪郭線にした、優しい叔父の顔を。


「それにしてもホント……おっどろいたなぁ。あれから行方不明だって聞いていたから、てっきり………」
再び目の前に来たことに気付かず、叔父の心配した声色でクリスは我に返った。
「色々あってさ……連絡する余裕なかったし」
クリスは、声の調子を落とす。
「とはいえ、手紙よこす位はしなさんな!情報屋に捜索を頼み、大事な甥について『何の手がかりもない』と言われた時にゃ、あまりのショックで枕を何度濡らしたことか……」
ズボンのポケットからハンカチを取り出し、泣くような仕草を見せる。クリスは再び苦笑いの表情を浮かべる。
「だから、そこはゴメンって……」
「まあ、よく『便りがないのは良い報せ』とか言うからな。こうやって元気な姿見るのがイチバンだ」
叔父が笑った直後、奥からけたたましい音が聞こえた。彼はおっと呟くと再度カーテンの向こうに引っ込んだ。何かに注ぐ音が聞こえると、今度はポット片手に店舗に戻ってきた。
「どうだ、コーヒー飲んでくかい?」
叔父はカウンター越しに、カップを差し出す。
「……うん、一杯だけ」
甘えるような声でクリスは答えた。それに応じた叔父は、景気よくお湯を注いだ。煎れたてのコーヒーの香ばしい匂いが店に充満していく。たった二人しかいない、狭い空間に。


「………で、今は何をしてるんだ?」
コーヒーを飲もうとするクリスに、叔父は腕を組みながら尋ねる。
「旅の途中、って言うところ……かな」
説明しづらい部分を省いた、一番シンプルな答えを伝える。それに対して、叔父は呆れるようなため息の後に口を開いた。
「……別に隠さなくてもいいぞ。このご時世に旅なんて言ったら、武器片手に、魔物を退治するって言ってるようなもんだ」
そこは武器商人ゆえか、叔父は腰に携えてある剣を見つめながら言う。
「今……ひとり、なのか?」
今度は、心配そうに言う。クリスは、それを否定する。
「今は、違うよ。知り合った人たちと一緒」
「ひとりでやるなんて、自殺するのと変わらないぞ。いくら、技術があるからって……」
「………分かってるよ」
コーヒーカップを、叩きつけるかのように置く。明朝の一悶着(?)で、一度は落ち着いた感情が、また湧きあがってくるのをクリスは感じていた。それを見て、叔父の鋭い言葉が聞こえてくる。
「分かってるやつは、そんな眼はしない」
叔父は、ため息の後に今度は諭すかのような優しい声でクリスに話しかける。
「あんなことがあって、お前の心中は分かるが………無謀だぞ」
クリスの脳裏に、夢で見た光景が浮かぶ。赤い空、酷いノイズでかき消された言葉、赤い景色に揺らめく白銀の何か………。クリスは、鋭い目であろうことが叔父を睨みつける。

「叔父さんは、分からないからそんなことが言えるんだよ。」


…BackNext…

10/19ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!