悲しく光った。
ぶくぶくぶく
光が少しずつ遠のいて
さよなら、眩しすぎる世界―――
「――っ!おい!」
沈みかけていた私を水から引き出してずぶぬれになった彼は、心配、というよりは怒っているようだった。
「何やってんだよ!ずっと浮かんでこないから心配したんだぞ!?」
―残念、浮かべなかったんじゃなくて、わざと浮かばなかっただけなんだけどね。―
「・・・。おい、大丈夫か?」
あれ、怒ってると思ったら今度は心配そうな顔してる。だから疲れるんだよね、この人・・・
「大丈夫じゃないよ。せっかく上手くいきそうだったのに・・・」
「何がだよ?お前死にかけてたんだぞ?」
「そうだよ?死にかけてたのに。」
「自殺願望者か、お前は!あのなあ、人生まだまだ・・・」
「"生きてればいいことあるのに"でしょ?聞き飽きたの、そんなこと。誰に言ってもみんな同じことしか言わない。他人のことに興味がないから、どうせ死ぬ勇気なんて無いくせに、って思ってるから。そうでしょ?私は誰からも必要とされてなかったし、期待もされてない、それでこれからもこのままなの。こんな世界にいたくないの。だったら私は違う世界に行きたい。私を必要としてくれて、"ここに来てよかった"って思えるような所へ。
なのに、アンタが邪魔するから・・・っ!」
「それじゃあ、俺がその"必要としてくれる所"へ連れてってやる。」
「――、 アンタなんかに・・・」
「まだ何も始まってないんだから分かんねぇだろ?俺がお前を生きたまま連れてった先でも今とおんなじ事を思ったら、そうしたら俺が殺してやる。それまでもう少し、この醜い世界で足掻いてみろよ。消えたら二度はないけど・・・生きてたら二度だって三度だってあるじゃねえか!」
唐突に、だけど
彼は泣いていると思った。
涙が実際に流れているわけではないけれど
でも、この世界のために、
それから私の代わりに泣いてくれているのだと
こんな世界にもこんなバカ正直なやつがいるのだと
そう思った。
「おい、何突っ立ってんだ、行くぞ!」
いつまでも返事を返さない私に痺れを切らし、彼は私の腕を無理矢理掴んでバイクの後ろに乗せた。
・・・拒否権はないのか。
それでも
私の体はずぶぬれで冷たいのに彼の背中が温かくて
「生きてるんだな」って改めてそう思ったら、今まで涙なんて流したことなかったのになんだか泣けてきてバカみたいに「死にたくなんかない」と思った。
バイクで走りながら前の方で彼が何か言った気がするけど
風と涙のせいで聞こえなかった、ということにしておく。
(お前がいなくなったら泣いてやるから、だから必要とされてない、なんて言うな。)
人魚姫になり損なった日。
(尾ひれの代わりに手に入れたのは・・・)
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