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煩わしいもの


煩わしいもの





『私、男の子になりたい。』

唐突に放たれた言葉は、綺麗な青空に消えた。

「何を急に…」
『そうしたらね、やってみたいことが沢山あるんだー』
「彼氏はどうするの?」
『うーん、それは割とどうでもいいかなあ』

彼女は時たま、ひやっとするような言葉を放つ。
私には彼氏なんていないし出来っこないけれど、もし仮にいたとして「彼氏はどうでもいい」なんてことは絶対に言えない。それを彼女は何事もないかのように言ってのける。
私と彼女はいつも真反対で、それが明らかになる度に自分の手の甲を抓らずにはいられなくなる。胸の奥がどろどろして、微かな吐き気がする。どう見ても彼女は美しいのだ。歪んだ考え方も、それを微塵も悪いと思っていない所も、全て。比較対象の自分が醜いと感じる度に、醜い分だけ美しい彼女の事が大好きなのだと思い知らされる。だからこそ彼女がどんなに非道な事を言ったとしても、私は絶対に彼女を嫌いにはならない。彼女に死ねと言われたら、死ぬかどうかを前向きに悩む位には大好きだった。
もし私が男になっても彼女のような女の子を恋人にはできないし、先程のように「彼氏なんてどうでもいいかな」なんて言われるのが関の山。かと言って私が女のままでも、彼女にはこれっぽちも気持ちが届かないに違いない。

だから、彼女は私の気持ちなど露ほども知らずに呟くのだ。

「だったら私は、男でも女でもなくなりたい」
『なんで?』
「…なんとなくね。」

(男でも女でも届かないのなら)
(人間なんていう括りさえ煩わしいのよ)



End.




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あきゅろす。
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