君が笑ってくれるなら
7...
「ア、ル…」
この位置からでは抱きしめられたあいつの顔は見えない。
「君はどうだか知らないけれど、俺は今でも君が大好きだぞ」
抱きしめたまま、奴は言う。
「勝手に独立した事は謝るよ…でも、好きだからこそ弟なんかじゃなく、対等な相手として見てほしかった…」
そっと相手の体を離し、俯いた表情を伺うように尋ねる。
「君は、もう…俺の事が、嫌いかい…?」
離れた事でやっと見えたあいつの表情は――…
「き…嫌いになれるわけ、ねーだろ…ばか…」
怒ってて、泣きそうで、照れ臭そうで…――
でも、嬉しそうだった。
「ホントに、君は…素直じゃないんだから」
「うるさいっ!」
そんな声を聞きながら窓の下にしゃがみ込み、壁に背中を預ける。
俺には取り戻せ無かった。
なにも、してやることは出来なかった…
でも今あいつは奴のお陰で笑えてる。
乾いた笑い声が口の端から漏れる。
「全く、HEROには敵わないね…」
窓から見上げた空はいつの間にか晴れていた。
――雨が残した最後の一滴は頬を伝って落ちていった。
君が笑ってくれるなら/fin.
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