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君が笑ってくれるなら
2...

「―――…」

ふと後ろからあいつの声が聞こえた気がした。

「―――ルっ…」

振り向きかけたが雨で掻き消された言葉の内容が想像できて、振り向けなかった。

代わりに握った手をきつく、少し痛いくらいに握る。が、やはり相手はこちらにはなんの反応も示さない。

「―…ア、ル…」


――頼むから……

お前を捨てた、
ここにいない奴の名前なんて呼ぶなよな……



▽▽▽


静かな沈黙が満ちる部屋の中。

テーブルの上にはカップが二つ。
片方は手つかずのままだ。

(全く…わざわざあいつの好きな紅茶を出してやったのに…)

連れて来た時から変わらず、悄然とうなだれたままこちらを見ようとすらしない相手にため息をつきたくなった。


すっかり冷めた紅茶をもってキッチンに戻る。

「何がしたかったんだろうな…俺は……」

傾けたカップから茶色い液体が零れ、渦巻きながらシンクに流れ消えていく。

「奴の、アルフレッドの独立に手を貸したのは俺だってのに…」

言われた事しかしない、動かない、人形みたいなあいつ……

ポットにお湯を入れ、再び火にかけながら自問する。


こんなのを望んだ訳じゃなかった…


「ただ俺は…あいつに…」


――雨はまだ窓を叩いていた。




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