君が笑ってくれるなら
1...
「アー、サー…」
掠れた声は届かなかった。
伸ばした手は何も掴め無かった。
俺はただ、君に――
▽▽▽
全く止む気配もない土砂降りの雨の中、あいつは座り込んだまま動こうとしない。
既に銃を向けた相手は去り、周りには誰も…否、俺だけしかいない。
「お、おい…アーサー…」
そっと近づいて声をかけるも、全く反応を示さない。
俯いた顔からは表情が伺えず、自分より小柄な体は雨に濡れそぼち更に小さく見えた。
「おいっ……、ッ!!」
思わず触れた相手の体の冷たさにぎょっとした。
慌てて自分の来ていた外套を脱ぎ、相手の肩に掛ける。
服に雨が染み込み、冷気が体を包む。
「こんな状態でいたら死んじまうって…ほら、行くぞ!」
その冷たさにぞっとして、無理矢理腕を引っ張り立ち上がらせる。
引かれるままに立ち上がった相手の表情は虚ろでこちらを見ていなかった。
舌打ちしたくなるのを堪えて、冷え切った手を握り歩き出す。
――雨は止む気配が無い。
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