10
その日の内に荷物は片付けられ、神社も閉めきり、真夜中に家を後にした。
「お父様、お母様、お兄様…。
何でこんな風に逃げるようにするの?
何で急に出ていかなくてはならなくなったの?
私が香奈の存在を知ってしまったせい?」
「しー…奈穂、静かになさい、誰かに見つかってしまうわ」
「お母様…」
「もう少しで港に着く。
まだ歩けるか」
「お父様…」
「僕は大丈夫です、奈穂は?」
「大丈夫…お兄様…」
重い荷物を持って歩き続け、もうすぐ夜も更ける…。
「ねぇ、何で香奈を箱に入れて運ぶの?」
…それは、もし知り合いに見つかっても気付かれないように。
力が急に発揮されるのを恐れ、結界を張るため。
3人はそう思いながらも、口にはしない。
やがて港に着き、前からこのような時のために買っておいた船に乗り込み、出航した。
やがて中国に着き、陸路を使ってヨーロッパに至る。
それからは何とか食を繋ぎ、ギリギリの生活を送っていた。
それでも毎年恒例の誕生会は開かれ、奈穂が10歳の誕生会ももちろん例外では無い。
「「「HAPPY BIRTHDAY!!」」」
盛大に開かれた誕生会。
トイレと言ってその場を立ち去る奈穂。
廊下に出て、一人佇んでいる。
実は、神の調教によって奈穂の精神の不安定さが最高潮なっていた。
「最近の私は…お兄様を越えたかもしれない…。
私は最強よ!?
それなのに扱いは別に普通…何で?
私の力、思い知らせてやる…」
優越感、過大評価、自分への過信…。
人間なら誰にもある負の感情の増大…。
変な妄想が頭の中を支配し、奈穂は何かをしようとしていた。
だが、その時。
「何か、声が聞こえる…。
私に力をくれる…の?」
声を頼りに歩き続けて着いたのは、物置部屋。
鍵は奈穂の力であえなく壊れる。
「声はあの、短刀から…?」
大事そうに置かれた短刀を目の前にして立つ。
1本の鹿の角に乗せられた短刀は、不気味なオーラをかもしだしていた。
西洋風の短刀を手にすれば、自分の持つ霊力がその短刀から放出できる。
「これを使えば…!」
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