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嫉妬と恋心(前編)
リュウは嫌な汗をかいていた。
(なんで、こいつがここにいるんだ!?)
複雑な顔をして、目の前で愛と話をしている男を見ていた。
「教官……あの、お久し振り…です」
「うん。愛は元気にやっていたか?」
この金髪の長身イケメンはロイ・スピルスという新人育成の教官だ。
ロイは甘いマスクをほころばせ、愛の頭を優しく撫でた。
「はい。教官も、あの…お元気…でしたか?」
「ああ、俺も相変わらずだ。暫くこっちに居ることになったから、近いうちに飯でも連れて行ってやろう」
「あ、はい。嬉しいです」
親しげに話す二人にリュウは派手な舌打ちをする。
「馴れ馴れしいんだよ」
「何だ、リュウ。珍しいな。やきもちか?お前も飯ぐらい連れて行ってやるぞ」
小さく笑いを漏らしながら、ロイが言う。リュウはじろりとロイを睨み付けた。
「あァ!?なんの冗談だよ。誰がおめェとなんか、クソ不味い飯食うか。それより、俺に近寄んじゃねぇぞ。声もかけてくんな」
「はは…随分と嫌われたもんだ」
ロイは苦笑するとふたりのやり取りに困惑している様子の愛の頭に手を置いて軽く叩いた。
「あいつはツンデレだから、素直じゃないんだ」
「誰がツンデレだッ!!」
その様子を眺めていた匡志が楽しそうに笑う。
「面白いことになりそうだな…」
そして、呟いた。
「匡志さん、あの人のこと知ってるんですか?」
「あー、よくは知らん。ただ、研修時代のリュウの教官だったってことは知ってるよ。それから…いてっ!」
嬉し気に話す匡志の頭を佑也が小突いた。
「余計な事は言うな」
「なんだよ、いいじゃねえか別に」
「何なんですか、余計気になりますよ」
「奏、耳貸せ」
匡志は人指し指で合図して奏に耳を近付けさせた。
「匡志!」
佑也の声など聞いてはいない。匡志は余計な事を言いたくて仕方がないのだ。
「あの人、リュウの初めてのオ・ト・コ。ヤツがあまりにもやんちゃ過ぎるから身体で言うこと聞かせたらしいぜ」
「……」
匡志が得意気になって言うが、奏は何の反応も示さない。
「何だよ、もっと驚けよ」
奏は溜息をついた。もっと興味深い話なのかと期待していたのだがあてがはずれた。人のセックス事情には全く持って興味がない。
「興味ないです。」
奏は突き放すようにそう言うとふいとその場を離れて行った。
「何だよ、可愛くねーなぁ」
匡志が「ちぇっ、つまんねーの」とか言っていると、再度佑也に小突かれた。
「スピルス教官、こちらにみえるのは珍しいですね。何かありましたか?」
「いや、たいしたことじゃないんだ。ちょっと用事があってね。ついでにお前達のクライアントもお連れしてきたぞ」
佑也に返事を返していると、ちょうどそのクライアントが尉槻と部屋に入ってくる。
「今回のクライアントのユリさんだ」
「ユリちゃん久し振り〜」
匡志が手を振りながら声をかけると美少年が華のように笑って答えた。
「みなさん、またよろしくお願いしまぁす」
ユリは小首を傾け甘えた声を出すと、自分の可愛らしさを目いっぱいアピールして挨拶をした。
今回の任務は宇宙的アイドル『ユリ』がドラマ撮影のため地球に滞在している間の護衛だ。ユリは中性的で愛らしい容姿から男女を問わず絶大的な人気のあるトップクラスのアイドルだ。過去に地球に来た時も尉槻チームが護衛に付き、その際に何故かユリはリュウのことをとても気に入った。以来ユリの護衛は尉槻チームが担当することとなっている。
「今回もリュウでいいよ」
「では、この方で…」
「断る!!」
女性マネージャーの言葉をリュウが遮った。
「けっ、くだらねえ。何が護衛だ。そんな仕事は俺のガラじゃねえってんだ。こーゆー仕事は匡志か奏がやりゃあいいじゃねえか」
マネージャーは意外な返答に信じられないといった様子でリュウに言い返した。
「な…何を言うの!?ユリの護衛が出来るのよ」
「ふんっ、興味がねえって言ってんだよ、こんなヤツ」
宇宙的アイドルを捕まえて「こんなヤツ」呼ばわりとは恐れ入る。しかし、ユリ自身はそれを気にしている様子はない。
「いいよ、リュウはそういうヤツだって知ってるし。でも、ちゃんと引き受けてもらうからね。僕に付いていてさえくれれば、自由にしてもらっても構わないから。クライアントの依頼は絶対だろ?」
「けっ、勝手にしろ。行くぞ、愛」
リュウは吐き捨てるように言うと愛を連れて部屋を出て行こうとした。
「ちょっと待ってよ」
呼び止めるユリの声を無視して出ていくリュウの後を追っていた愛は足を止めて振りかえった。
「誰?この前の時は居なかったよね」
ユリは愛を睨みつけるような視線で見た。
「愛だよ。仲良くしてあげてね。ほら、ちー、挨拶して」
すかさず匡志がフォローする。愛は慌てて頭を下げた。
「琴羽愛です。宜しく…お願いします」
「ふん…」
ユリはじろじろと値踏みするように愛を見た。
「おいっ、愛!何やってんだ行くぞ」
「あ、はい。す、すみません、失礼……します」
愛はもう一礼するとリュウを追って慌てるようにして出て行った。
「では、今回も獅堂がつくということで宜しいですか?」
尉槻がやれやれといった様子で話をまとめる。
「本当に彼で大丈夫なの?」
「はぁ…問題ないと思いますが。ユリさんの希望でもありますし。念の為、交代でもう一人付けるようにしますが…」
「お願いします」
「では、こちらで詳しい詳細を」
「ユリ、私はこれから打ち合わせだから、あなたは暫く自由にしていてもかまわないわ。但し、館内を出ないでね」
「はいはい」
マネージャーにいい加減な返事を返してユリは部屋を出て行こうとした。
「ユリちゃん、何処行くの?」
「トイレ」
「一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ。それとも、ここはトイレすら一人で行くのもNGなわけ?」
「そんなことないよ。どうぞごゆっくり〜」
にこりと笑って見送る匡志を尻目にユリは部屋を出て行った。
「まったく、無駄に広いよな。ここは」
少し迷ってトイレに辿り着いたユリは清掃中の看板を目にした。
「何だよ、清掃中かよ」
中を覗き込んで見るが、掃除をしている様子はなさそうだ。
「してないじゃん」
中に入ってすぐの場所に設置されている姿見の前に立った。
(リュウは僕の何処が気に入らないんだろ)
鏡に映る自分の姿を眺めていると奥の個室から「あッ…」と高い声が 聞こえてきた。同時に人がゴソゴソと動いている音がする。
「……あ…やぁ…あぁ」
「おら、少し力抜けよ。奥まで挿んねぇだろうが」
その聞き覚えのある声に否応なく状況を理解させられる。
(何やってんだよ、こんな所で)
個室から聞こえる声が次第に大きく大胆になっていく。同時にぐちゅぐちゅと淫らな水音が反響する。
「…リュウ…リュウ……」
「はっ、すげぇいい。食い千切られそうだぜ」
「あああぁ……やぅ…ぁ」
(嘘だろ、リュウとアイツ!?)
「ああッ……出ちゃう……そこ擦っちゃ…やらぁ」
「教えただろ。出るじゃなくて、イクッって言え」
「…いくっ…いくっ……びゅってなっちゃう…あぁッ」
「口開けて舌寄こせ」
「あふッ…んん…んぅ」
ユリはその場を飛び出した。とてもではないが聞いていられない。
リュウが見境なく何人もと関係をもっていることは知っていた。でも、その現場に遭遇するのは初めてのことである。
(あんなヤツともヤッてるなんて)
気が付くとユリは元居た部屋へと戻っていた。
「お帰り。あれ、走って帰って来たの?顔が赤いよ」
呑気な声で言う匡志をユリはキッと睨みつけた。
「ここでは清掃ってセックスすることなの!?」
「えっ!?あ――、ごめんね。トイレ、入れなかった?」
「勤務中にトイレでセックスって、職務怠慢じゃないのか?」
「うん。そうだね。ユリちゃんの言う通りだ。後で叱っておくよ」
「信じらんない!アイツはリュウの何なんだよ!?」
「何なのって言われてもなァ」
「アイツがリュウの相手?あんなのが!?」
「ちょっ…ユリちゃん落ち着いて」
凄い剣幕で怒るユリを匡志がどうにか宥めようとする。
佑也と奏は我関せずといった風に各々の業務をこなしている。どうやらユリのお守は匡志に丸投げするつもりらしい。
騒ぎに気付いて、尉槻とマネージャーが打ち合わせを中断して奥から出てきた。
「何を騒いでるんだ?」
「あ、ボス。いや、騒いでるっつーか……」
「ねぇ、アンタがここのチームの責任者だろ。アンタの権限であのチビをクビにしてよ」
「チビ!?誰のことだ?」
「リュウに付き纏ってるあのチビだよ!アイツ、まじ目障り!」
「俺にそんな権限はありません」
半ば呆れた様子で尉槻は答えた。
「じゃあ、アイツを僕の視界に入れないようにして」
「それも無理ですよ。うちのチームにとって大切な仲間ですから。琴羽が何か気に触るようなことでもしましたか?」
「アイツ嫌い!超ムカつく!僕がここに居る間、何処かに閉じ込めておいてよ」
「ユリ!そんな無茶言わないの!我儘が過ぎるわよ」
流石に見かねてマネージャーもユリを嗜める。
「うるさいな、嫌なものは嫌なの!」
「だったら、俺が愛を引き受けようか?」
突然降って湧いた言葉に思わず全員がその主の方を見た。
「ロイ!」
「お困りのようですね。尉槻センパイ」
ロイは甘く微笑んだ。
「うむ……」
「いいですよ。愛なら大歓迎です。ちょうど手伝ってくれる者を探していたところなんです。俺の仕事の補佐をして貰うということでいいですか?」
「ああ、すまん。頼む」
「待って下さいよ、ボス。そんなことしたら、今度はリュウのヤツがごねるんじゃ……イテッ!」
慌てて匡志が間に入るが、すかさずユリに思い切り脛を蹴られる。
「余計なこと言うな、匡志!」
「匡志、すまんが、お前の方からリュウに上手く言ってくれないか?」
「え―――、また俺ですか?」
にこりと笑って尉槻が匡志の肩を叩く。
「はいはい、わかりましたよ」
匡志は頭を掻きながらはあと大きく溜息を零した。




撮影が開始して数日、スケジュールは何も問題なくこなされ、当初心配していた混乱も特に見受けられなかった。リュウは怠慢な態度でいい加減ではあったが一応任務には就いていた。取り敢えず、突っ立てればいいと匡志に言われたのでその通りにしている。本日は午前中のみの撮影で何事もなく終了した。
「獅堂さん、明日の予定なんだけど…」
「は?ンなのはボスにでも伝えといてくれ。俺は用事があるんだ」
「用事って…撮影が終了したからって護衛の仕事は終わりじゃないでしょ!」
「うるせー!俺が終わりと思ったら終わりなんだよ!!」
「なんですって〜!!」
マネジャーは血管を浮き上がらせて髪を逆立てた。あまりの横柄なリュウの態度にマネージャーは日に何度もブチ切れている。地球に来てから胃薬常備で血圧も上がりっぱなしだ。
「…大丈夫なんですかね、このままで。あのマネージャー形相変わってますよ。前回同行したマネージャーも地球から帰ってすぐに辞めてしまったらしいですよ」
「知らん!」
佑也と奏は自分たちの仕事を進めながら横目でその様子を眺めていた。
マネージャーのヒステリックな声を背にリュウは室内を見渡して奏に声をかけた。
「おい、愛はどうした?」
その言葉にピクリとユリの眉が動く。
「愛ならまだ帰ってきてませんよ」
リュウは大きく舌打ちした。
「あんなヤツ別にいいじゃない。他に相手ならいっぱいいるだろ」
透かさずユリがリュウの元へ行き身体を擦り寄せ誘う仕草で上目遣いに甘えた声を出す。リュウはそれを押し退けた。
「そうだな」
「リュウ!」
ユリを無視してリュウは部屋を出て行った。
「ったく、アイツは勝手なヤツだな。ごめんね、ユリちゃん。明日の話は俺が聞くよ」
匡志が申し訳なさそうにユリに声をかける。
「いいよ別に」
ユリはそう小さく言ってプイと顔を背けた。
「アイツのとこに行くんじゃないなら別に構わない」
そう呟くとユリも部屋を出て行った。
(ちーに拘るってことは、ユリちゃんはちーが今までの相手とは違うってわかってるんだろうな。それなのに当の本人が何もわかってねぇからな……)
匡志は出て行くユリを眺めながらはぁと溜息を零した。
「ったく、厄介なヤツだね、アイツは」

ユリは指令室を出た後、ちょうど仕事から戻った愛を見つけた。今、最も会いたくない相手だ。ユリは柳眉を吊り上げ、半ば怒鳴るように声を掛けた。
「何でこんな所に居るんだよ。僕の前に現れるなって言ってあるだろ」
「ご…ごめんなさい」
愛は頭を下げて謝り、慌てて立ち去ろうとする。
「お前さぁ、リュウと寝てんだろ」
その言葉に振り返ると、ユリが険しい顔で自分を睨んでいた。
「僕もリュウとは寝てるよ。僕だけじゃなくて、何人もと。お前も知ってるだろ」
愛は首を振った。何も知らないのだ。
「は?お前、自分だけが特別だって思ってるの!?自分だけが抱かれてるって。ばっかじゃない?お前なんか大勢の中のひとりなんだからな。リュウにとってはみんな性欲処理の相手でしかないんだ。そんなこともわからないでリュウと寝てるの?」
ユリの言っている意味がわからず、愛は首を傾げた。
「お前、本当にバカなんだな。リュウはお前とセックスした後も他のヤツのところへ行って同じことしてるってこと。それがどういう意味か位わかるだろ」
そう言われてもその意味を理解する術を愛は持っていない。愛は閉鎖された環境の中で育ったらしくSCで教育を受けるまでは一般的な日常生活にすら順応してない状態だった。精神年齢も幼く感情も拙い愛に恋愛や性に於ける複雑な感情を理解させるのは難しい。
「何時も一緒に居られるからって調子にのるなよ、オナペット!」
「おな……?」
「ヤることだけヤッたら用無しってこと。お前なんかすぐに捨てられてお終いだよ」
リュウに要らないと言われたら全てが終わってしまうということ。それは愛も漠然と感じていた。そして、そのことがいつも不安となって心の何処かに沈んでいた。愛は俯いて掌をギュッと握りしめた。
「おい、何してんだ、こんな所で」
後方からリュウの声が聞こえ、二人は身体をビクリとさせた。
「愛、戻ったら、すぐ俺のところへ来いって言っただろ」
「あ、ごめんなさい」
ズカズカと乱暴な足取りで愛の元へ向かうリュウの前にユリが出てそれを阻んだ。
「リュウ、出掛けたんじゃなかったの?」
「はァ!?てめぇにゃ関係ないだろう」
「関係なくないよ。僕はクライアントだぞ。明日の打ち合わがあるって言ったじゃないか」
「そんなモン必要ねぇって言ってんだろ」
「そんなわけにいかないだろ。仕事なんだからちゃんとしなよ」
「うるせぇな」
リュウは苛立ちを露わに手を振り上げた。咄嗟に愛が間に入り、振り下ろした手が愛の頬を打ち付ける。その衝撃で愛は床に倒れた。
「ばかッ、何やってんだ!」
リュウが慌てて抱き上げると、愛は笑ってみせた。
「だ…大丈夫。リュウ、ちゃんと行った方がいいよ」
口内が切れたのか愛の唇の端からは血が零れている。リュウはそれを指で拭ってやり、愛の身体を降ろして立たせた。
「……ちぇっ、わかったよ。行けばいいんだろ。面倒くせぇな」
リュウは頭を掻いてかったるそうに打ち合わせへ向かった。
(何なんだよ、こいつ。こいつの言うことは聞くのかよ)
ユリが知る限りでリュウは誰の言うことも聞いたことがない。上司の命令にすら従わない程だ。それなのに、愛の一言を不満げながらも聞き入れるとは。それだけではない。自分で叩いたとはいえ愛を抱き上げ、血を拭ってあげるなど信じられない行動をとった。他人にそんな風に触れるリュウを見たことがない。
(こんなヤツの何処がいいんだよ!)
ユリは愛に憎悪すら感じた。
「お前、後で僕の部屋に書類届けてくんない?」
「えっ!?俺が」
「ああ、お前でいいよ。尉槻に言えばわかるから、ちゃんと持って来いよ」
きつい口調で命令するとユリもリュウの後を追った。


退屈な打ち合わせを終え、不機嫌を全身で表わしてリュウはユリを部屋まで送った。地球に滞在中は安全確保の為SC内のゲストルームで寝泊りをさせている。
荷物を下ろし、無言で部屋を出ようとしたリュウをユリは呼び止めた。
「ちょっと、リュウ」
「ンだよ!」
迷惑そうな顔で振り返る。
「ね、しよ?」
「あァ!?」
「この前みたいに僕を可愛がってよ」
ユリはリュウの股間に手を当てた。
「おい、気安く触るんじゃねぇよ」
自分の股間を掴むユリを容赦なく突き飛ばす。小さな悲鳴をあげて、ユリは床に倒れた。
「てめェ、そんなに俺に突っ込んで欲しけりゃ、俺をその気にさせてみな」
「……わかったよ」
ユリはキュッと唇を噛みしめると、ゆっくりと立ち上がった。
「ただし、勝手に俺に触れるんじゃねェ。てめぇ如きが好き勝手出来る身体じゃねぇんだ」
「なっ…!じゃあ、どうしろって言うんだよ?」
「服脱いで股おっぴろげな。自分で弄れ。そうすりゃ生理的にはおっ勃つかもしンねーぜ」
「そんなこと……」
あまりの屈辱にユリの身体は震えた。今までこんな蔑まれるような扱いは受けたことがない。
「出来ねぇんなら、この話はここで終わりだ。二度と俺に構うんじゃねェ」
リュウは冷たく言い捨てると部屋を出て行こうとした。
「待って!」
その声を無視して扉横のコントロールパネルに手を置きリュウは出て行こうとする。
「や…やる!」
ユリははっきりとした口調で言って、唇を噛みしめた。
「やるよ」
自分に言い聞かせるようにもう一度言い、ユリは自分の胸元をギュっと握り締めた。
「早くしろよ。てめぇの相手してるほど暇じゃねぇんだ」
リュウは向き直ると、腕を組んで立ったまま威圧的にユリを見た。相変わらず向けられる視線は冷たい。
ユリは震える指でシャツのボタンをひとつずつ外していった。
(僕は何してるんだよ?)
今から自分は自分に全く何の興味も示さない男の言いなりになってプライドを捨て、慰めな姿を晒そうとしている。いったい、この男の何が自分をここまでさせるのだろうか。
ユリは脱いだ服を床に落として、下着だけの姿になりリュウを真っ直ぐに見詰めた。
「男の下着姿になんか興味ねぇんだよ。とっととそれも脱いで股を開きな」
全裸になったユリは一人掛けのソファに座り腿を開いた。
「見えねぇよ。肘掛けに脚乗っけて、もっと股ァ開け」
ユリは瞼を固く閉じて唇を噛みしめると、全身を朱に染め、言われた通りに腿を開き全てをリュウの前に曝した。肉の芯は既に頭を擡げ先には蜜を滲ませていた。光に晒された蕾は何もされていないのにヒクヒクと息衝いている。
「はァ!?何だよそりゃ。何もされてねぇのに反応しまくりじゃねぇか。裸になっただけで勃起かよ。たいした変態だな、てめぇは」
「そう……だよ…。それが、なに?」
「開き直りかよ」
「僕にこんな真似をさせて……。みんな、目の色変えて僕の身体を求めてきたのに。何でお前だけ…。何で……」
「何ごちゃごちゃ言ってんだよ。さっさと終わらせな」
ユリは震える手を戸惑いがちに股間へもっていくと指先でペニスをそっと撫でた。刺激を求めて蜜を零すそこは少し触れただけでも身体に甘い痺れをもたらした。
「…あぁ」
更なる快感を求め、蜜を絡めながら指はペニスを激しく擦り、先の溝を爪先で引っ掻いた。
「ん…んん…ぅ」
蜜に塗れた手でペニスを扱きながら、空いている手を奥の蕾へ持っていく。
(奥が……)
身体の中のずっと奥の方が疼き、ユリは指で肉の入口を開き、その中へと指を二本差し入れた。
「ああぁ…あ…ん」
ペニスから零れる蜜は後ろまで伝わり、その蜜で滑る孔の中へ指を入出させながら、ユリは腰を振る。自分に向けられている感情のない冷たい視線にユリの身体はゾクゾクとした痺れに支配される。
「ねぇ…触って……。触ってよ」
「はァ!?何で俺がてめぇなんかに触らなけりゃなんねぇんだ」
「…あ…ああぁあ……んっ…リュウ…」
「気安く俺を呼ぶんじゃねぇよ。てめぇなんざ、これで充分だろ」
リュウは目についた化粧水スプレーのボトルを手に取ると、ユリの孔に押し入れた。
「ひっ…ああぁあ……」
「何だよ緩んでるんじゃねぇのか?もう一本入りそうだぜ」
グリグリとボトルを押し込むと、すぐに手を離す。ボトルを伝っ愛液が流れ、てソファに落ちて滲んだ。
「そのままじゃイけねぇんだろ。自分で動かせよ」
「…そ…んな……」
「気を付けて犯らねぇと中で割れるぜ」
「リュウ………」
「やらねぇんなら俺は行くぜ。こっちはお気楽なお前と違って仕事で疲れてんだ。とっとと帰って休みてぇ」
ユリは震える手で銜え込んだボトルを掴んだ。ゆっくりと引くと信じられないほどの快感が身体を走り抜ける。
「あ…ああああぁ」
より強い快感を求めた身体は箍を外し、無我夢中で肉壁にボトルを激しく擦り付けた。リュウに見られているという意識がより一層ユリを昂揚させた。
自ら大きく脚を開き一心不乱にボトルを抜き差しする。恍惚とした表情で涎を零し喘ぐ。愛液に塗れたガラスのボトルが卑猥にうごめく肉襞の中から入出を繰り返した。
「あぁああ…イク……イク…んぅ――ーっ」
ユリは大きく身体を反らせると白濁の液を撒き散らしヒクヒクと痙攣した。

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