小部屋。(短編)
回想記。
春の暖かい日差し。
ぽかぽかと眠くなりそうな天気。
そして今日は休日。
有理は、散り終わりの緑がかった桜並木の下を歩いていた。
気まぐれに外に出てきたものの、行く当てはなく、足の向くまま歩いていた。
まだ日も高くなく、人影はない。
ここは都心に近いとはいえ、田んぼも見えるような田舎町。人々が活動を始める時間は至極遅いからだ。
すれ違う人といえば、近所のお年寄りだったり、犬の散歩をする人くらいなもの。
普段の、チャイムという恐ろしい機械によって区切られた時間に追われる生活が遠く感じる。
同じ時を過ごすなら、こういう、ゆっくりとした時間の方が断然好きだ。
いつもの忙しさがあるからこそ、この有難みが実感できるんだろうなぁ…
と、哲学的なことを考えて、小さい頃は時間が余り過ぎて、つまらなく感じていたことを思い出す。
思い出は、1度現れると次々に自己主張を始めるものらしい。
有理の中に、幼い記憶が溢れてきた。
幼稚園…小学校…中学校…そして、高校。
既に1年を過ぎた高校生活は、鮮やかなままの思い出がたくさんで、その中のどこをとっても、和紗が隣にいる。
はっきりとした、しかし淡い色の思い出。
ふっと、笑みが零れそうになるのを堪える。
一緒に居る時間が長すぎると、その幸せは日常になって気づかなくなると言う。
彼等にそんな日がくるのだろうか…
◇ひとだんらく◇
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