小部屋。(短編)
近くに。
やや人の多い夕方の電車内。
有理と和紗の前に座っているのは、世間で言う"バカップル"。幸せそうな顔で(時折過剰なスキンシップを交えつつ)顔を寄せて会話している。
日頃、くっつきたい衝動を抑えている有理は、理不尽とは思いながらもイライラしていた。
「はぁ――…」
出てくるのは溜息ばかり。
有理の不機嫌を感じた和紗は、恋人の可愛らしい顔を覗き込む。
「どしたの?」
「別に…」
「そ?」
ぷに。と、有理の頬をつつく。
「なんだよぉ」
ぷにぷに。有理の反応に構わず、無言で何度もつつく和紗。
有理は、華奢なつくりにもかかわらず、頬は肉付きが良いので、和紗が頬をつついても痛くはない。
けれど…気にはなる。
「人が見んだろ…」
「うん。」
「止めろって。」
「や、だ。止めさせる気ないくせに。」
和紗は、膝の上から動く気配のない有理の手に触れる。
「言ってくれれば、いつでも触れるんだよ。」
「何だよ…いきなり…」
和紗の爽やかな笑顔に悪態ついてはみるが…その言葉は弱弱しく消えた。
◇ひとだんらく◇
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