小部屋。(短編)
雨。
急に振って来た雨。
それも、ザーザーと音を立てる本降り。
いつもの有理なら、傘を持っていようと忘れていようと和紗の傘に入って帰るのだが、生憎、今日は一緒ではない。
突然来たものは、突然止むよな。と、仕方なしに、シャッターの閉まった店の前で雨宿りをする。
「あぁー…どぉすればいいんだよ…」
有理は、高校と駅のちょうど中間で降ってきた、タイミングの悪い雨を恨めしそうに見上げて呟く。
「寒…」
季節は春とはいえ、まだ肌寒い3月。雨が降ればなおさらのこと。
若干濡れてしまった髪や制服が体温を奪う。
色褪せて見える風景が、もともと人恋しい性格の有理を余計に寂しくさせる。
「和紗…何で居ないんだよぉ…」
どうして今日は一緒じゃないんだろう?と、校門を出るまでの行動を思い返してみる。
「あぁ…」
ふと、思い当たる節にぶつかる。
怒ってたんだ…和紗が女子と話してたから…
そんなことで怒ったバチなのかなぁ。
嫉妬なんて、女々しい。と、思うのだけど、相手を好きな分だけ、不安も大きい。
きっと今頃、何も知らない和紗は俺を探してるんだろう。
ちょっと、申し訳ない。
「でも…和紗が悪いんだから…」
雨のせいか、どんどん重くなる気分。次第に、有理の頭はぼぅっとしてきた。
不意に、冷たくなった手を、大きな温かい手に包まれて意識が戻ってくる。
「有理!」
耳に心地良い、優しくて低い声。
和紗だ…片隅で認識するけど、声が出ない。
「…っ有理!」
何度も呼ばれて、やっとのことで和紗を見上げる。
「何…やってたんだよぉっ!」
憎まれ口を叩きながらぎゅっと抱きつく。
訳もなく零れてくる涙を堪えながらきつく手を握る。
「寂しかったー」
「ずっと探してたんだよ。生徒会室まで行っ…」
有理が顔を上げて言葉を遮った。
「嘘!バカ!行ったの?!…恥ずい…だろ…」
「でも、見つかって良かった…」
和紗は、有理の華奢な肩に頭を乗せながら微笑む。
「もう、いいや…」
「…ん?」
「なんでもない。帰ろ。…傘は?」
和紗の両手は有理の手でふさがっていて、どこにも傘らしきものは見当たらない。
「置いてきた…有理見たって聞いて…慌てて出てきたから。」
「本っ当…バカじゃん。」
二人の顔から、思わず笑顔が零れる。
「うっさい。」
一緒なら、雨宿りも悪くないな…
◆ひとだんらく◆
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