小部屋。(短編)
誕生日。
―ピンポーン
玄関のチャイムが、控えめな音で鳴る。
有理はとてとてと小走りに玄関へ向かい、ドアを開く。
すると、そこには和紗が立っていた。
愛しい恋人の姿に、思わず有理の頬が緩む。
「おはよう。」
まだ8時。息を白く曇らせながら、和紗が言った。
「おはよ。」
高校生の男子にしては、やや高い声が返す。
「早すぎた…?」
「ううん。待ってた。」
有理は、可愛らしい笑顔を振り撒いた。
「寒いでしょ?入って。」
淡い青の小物でまとめられた有理の部屋に入ると、和紗は、
「誕生日おめでとう」
と、言って小さな手持ち型の紙箱を差し出した。
「あ…ありがとっ…これって…」
「ケーキ!駅前の、有理が食べたがってたやつ。」
やっぱり。と、有理の瞳が輝く。
「開けていい?」
「もちろん」
有理が置きテーブルの上で、受け取った箱を丁寧に開くと、中には純白のクリームの上に大ぶりな苺の乗ったショートケーキが入っていた。
「美味しそう。」
和紗を見上げ、頬を紅く染めながら笑顔を零す有理に、和紗の胸が擽ったく疼く。
その疼きの心地よさにぼぅっとしかけた和紗は、いつまでもケーキを見ているだけだった有理を促す。
「食べたら?」
「そう、だね。何か勿体なくって食べづらいな…あ、和紗にもあげるよ…って、和紗がくれたんだよね。」
有理はひとしきり混乱を終えた後、ケーキを取り出した。
付属の小さなプラスチックフォークでつつき、一口食べる。
始終頬の緩んでいた有理が、更にぽぅっとする。
「ぉいしい…」
ぽつ。と呟き、またケーキを掬う。
「和紗、あーん」
大きく口を開けながら言った。
和紗が照れながらも口を開けると、甘い塊が零れながら入ってきた。
―間接キス―
言葉が和紗の脳に認識されると同時に、心音が煩くなる。
静めようとする程、鼓動が増す。
「どうかした?」
可愛らしい顔がきょとん、と覗き込んでくる。
「ななんでもない。」
「そう?」
どもったことは有理に気づかれなかったらしく、何事も無いかのようにケーキを口に運ぶ。
そんな事を繰り返すうちに小さなケーキは減っていって…
「苺、余っちゃったね。どうしよう。」
有理は暫く悩んで、和紗の口に赤い果実を放り込んだ。
そして、自らの唇も押し付ける。
和紗の咥内で甘酸っぱい果実が溶け、それを有理の舌が掻き回す。
冷たい…熱い…甘い…甘い…
ちゅ、という淫らっぽい音と共に離れる唇。
「っん…美味しい……ね」
不意の行動に、和紗の思考がついていかない。
「有理?」
気がつくと、胸の中に有理の小さな顔が埋まっていた。
「和紗…大好き…ありがと…」
有理は聞こえるギリギリの小さな声で呟く。
「それとね…大好き」
「一回言った。」
「そう?」
「もう一回」
「…好き」
「もっと」
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endless
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