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負け試合
新チームになって初めて、公式戦で負けた。
相手は特に強豪という訳でもなく、ごく平凡な公立校。はっきり言って負ける気はしなかった。それなのに蓋を開けてみたら八対二で負け。
負けた事もだが、準太が八点も取られた事が信じられなかった。
『負ける』という事は久しぶりだった。甲子園に出場した三年が引退してから練習の手を抜いた訳じゃない。
新しい主将になった和己もエースになった準太も練習量を増やして頑張っていた。
桐青の時代はもう終わった、だなんて言われないように。
「……帰ろうか、皆」
どれ位たっただろうか。皆の鳴咽が小さくなって来た頃、和己が小さく言って立ち上がった。
皆が荷物を持ってゆっくり帰り支度を始める中、俺も同じように立ち上がって…気付いた。
「なァ…準太は?」
準太がいなかった。さっきまで隅っこで膝抱えて、誰も寄せ付けずにいたのに。
「そういえばいないな…」
和己も心配そうに辺りを見渡している。
「俺、捜してきましょーか?」
何時の間に聞いていたのか利央がひょっこりと顔を出す。やはり心配なのだろう。
「…あ〜、俺が捜してくっからいーわ。和己の荷物でも運んどけ」
和己は俺に悪いな、と言い、利央はそんな和己の荷物に手を伸ばす。俺は自分の荷物を引きずって準太を捜しに出た。
もしかしてもう皆と合流してるんじゃないか、とはそんな事は考えない。有り得ないからだ。
アイツは絶対に自分を責めている。そういうヤツだ。
「準太」
暗い、誰も来ないような所に準太はいた。やっぱり膝を抱えて。
「慎吾、さん…」
何の用ですか、と。そう続ける準太の声には何時もの覇気はない。
「お前ね、それがわざわざ捜しに来た先輩に言う台詞?」
とりあえず目的は達成したからと携帯を取り出す。和己の携帯と繋がろうと電子音を響かせるそれに反応したらしく、ピクリと準太の肩が震えた。
「…帰るんすか」
「ん。和己も利央も…皆心配してるからさ、帰るよ」
中々出ない和己に苛立ちながらふと準太を見て…そんな感情なんか吹っ飛んだ。
「いやだ」
あの準太が。あの準太が捨てられた子犬のように、縋りつくような目を向けて来たから。
「準太…誰もお前の事責めてはいないからさ…ね?」
なだめるようにその黒髪を撫でても首を振る準太は何時もと違ってとても小さく見えた。
「ごめんなさい…ごめんなさい慎吾さん」
何度も何度も謝罪を繰り返す準太に何を言うことも出来なかった。
それは準太の背中に俺なんかとは比べ物にならない程の重圧が見えたからだ。
一年生にして新チームのエースに選ばれ。何も言わずとも周りの目は更に良い結果を求めている。
昨年は甲子園出場なら今年は二回戦、昨年が準決勝ならば今年は決勝へ…と。
……一体どれ程の重圧なのか、俺には分からなかった。
いや、とてつもなく重いんだろう、位は想像出来たんだけど。
「……うん、俺もだよ準太」
ナメていたんじゃない、俺達は本気でやった。
それでも、勝者の影には敗者がいて。
俺達は、負けた。
「夏に勝てばいーんだよ。俺達はまだ引退するわけじゃないんだから」
この台詞を和己や監督が聞いたら怒りだしそうだ。
現に準太もなんとも言えないような複雑な表情をしている。
「だから、さ。夏まで頑張ろうよ準太」
涙を拭いて顔を上げる準太を見つめながら告げた言葉。
この言葉は準太を励ますものなのか、準太を追い詰めるものなのか。
俺には分からない。
END
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