Novels 二人の行く先 志望校決めた?そう尋ねた俺は彼の口から出たその学校名に驚いた。何を隠そう俺と同じだったからだ。 「え。でもあそこ遠くない?」 「んー。でもあそこしかやりたいやつが見付かんなくてさあ」 でもこの学校から入学した人いねェんだよな。指定校の推薦枠とれねーかなあ。 そんな会話をしていると彼はそういえばと此方を見下ろす。 「山ちゃんも同じだろ?」 「……何で知ってんの?俺言ったっけ」 「クラスの女子が話してるの聞いた」 困った。どうしよう。誰が話したかも分からない女子に不快感を覚え、拳を握った。 「指定校推薦取れるか分かんないけどさ。一緒に頑張ろ」 ふにゃ、と効果音が聞こえそうな。そんな笑顔を向けて来る相手に思わず言葉を失い、そんな自分に舌打ちしたくなった。 教師になりたいのだと、以前彼は言った。毎日スーツ着て眼鏡かけて、なんて堅苦しいのは嫌だけど。と困ったように笑う彼の顔を多分俺は忘れる事が出来ないと思う。 じゃあ教育学部に行くの。そんな質問には一人っ子とは言えそんな金ないよと首を振って。社会の中学教諭でいいなら心理学でも取れるみたいなんだ、なんて照れたように呟いた。 その日の空がとても赤かったのを覚えている。 将来を語る彼が羨ましいと思った。 俺に夢はない。ただ心理学に興味があるから勉強したいと思った。就職なんて雇ってくれるなら刑務所でも少年院でも何でも良い。 俺が学びたい、と思った心理学はこんな系統の学問なのだ。 「同じかあ。大学、行きたいもんね」 「でも大丈夫だって。今度二人で下見行こうぜ」 どことなく嬉しそうな彼を見てほっとした。嫌そうな顔なんかされたら進路変更しなきゃいけない所だった。 「山ちゃん。帰んねーの?」 何時の間にか帰り支度を整えた彼が扉の側に立っている。夕日が光っていやに眩しく見える。 「今行くよ、もとやん」 END 060513 二万ヒット御礼フリー小説第一段、本←山でした。教師の本やん似合うと思いませんか? [前へ][次へ] |