〜chocolatre〜 7 台所から戻ると、祐輔が席を立とうとしていた。 大人しく、座っているように言おうかと思ったが、目が合うと、固まり、軋んだ音が聞こえそうな動きで、浮かした腰を下ろした。 麦茶の入ったグラスを二つ並べて、卓袱台に置き、座布団を祐輔の隣に並べ、座った。 じいっ、と観察する。 ―――うーん…、“フツー”だなぁ。 改めて見てみても、普通としか言いようがない。 視線を感じたのか、祐輔がちらりと、こちらを見たが、直ぐに慌てて目を逸らし、グラスを掴むと、麦茶を一気に飲み干した。 ―――何だ、喉、渇いてたんじゃん。 「あの…話ってなんでしょうか…?」 「え?話?」 ―――そういえば、そういう事になってるんだった。さて、どうしよう? 考えながら、喋り出す。 ―――ええと…。 「ああ、実はね。最近、ちーちゃんが、つれないのよん」 ―――それから……。 「で、近頃、よく、江井くんと一緒にいるって聞いてね」 ―――んー、面倒クサイ。 一応、それとなく話を持っていこうと思ったのだが、男相手に、“それとなく”もない。 急激に、面倒になってきた。 「そんなに良かったのかと思って」 ニコニコと笑みを浮かべ言う。 「コレは、是非、ボクも試してみたいなぁ〜と思ってね」 「は?」 「だからね、ボクのもシャブってみてくれる?」 「…な…?!」 「あれ?聞こえなかった?ボクのも…」 「か、帰りますっ!」 祐輔が立ち上がった、瞬間、膝裏に刈るように足をかけ、掴んだ胸元を下に引き、押し倒す。背中から畳に叩きつける。受け身をとれなかったのだろう、背中を強かに打ちつけたようだ。 それでも、起き上がろうとする祐輔の、腰辺りに乗り、胸元を左腕で押さえつける。 「ぐ…ぇっ」 と、呻く声がしたが、完全に抵抗心を殺ぐ為に、仕上げをかける。 軽く拳を握り、殴りかかった。祐輔が目を瞑り、顔を逸らす。 来るはずの衝撃が来ない事を不思議に思ったのか、祐輔が恐る恐る目を開ける。 当たる寸前で止めた拳を、コツンと顎に当てた。 「江井くんは、痛いの好き?」 尋ねると、すっ…と、青ざめた。 「…好き、じゃ…ないです」 「だったら、ボクのお願い聞いてくれるよね」 早速、フェラさせてみることにした。 だが、シャブらせたものの、ちっとも上手くない。 期待した分、ガッカリ度は相当なものだ。 と思った。 さして気持ち良くもないし、何よりつまらないし、もう止めさせようとした時、気付いた。 ―――アレ? 仄かに、甘い匂いがする。 熟した果実のような甘い香り…。 下から、香ってくる。 ベリーの濃密さ、シトラスの爽快さ、桃の瑞々しさを兼ね備え、それでいて熟れたマンゴーのように官能的な…。 あまい、あまい香り……。 (なんか、これ―――) ―――腰にクル。 「…成程、コレか〜」 (堂本もこの香りに当てられてしまったのか) ―――あー、なんか…。 「もう、良いよ」 「ぷはっ…」 祐輔が頭を引いて、抜き取ると、モノが筋を立て、ぶるんと反り返った。 ―――うわ。 「ねぇねぇ、ちーちゃんにはもう、ヤラれ…てない訳ないか」 ―――こんなに、ソソルんだから。 祐輔の答えを待たずに、 「ボクにもヤラせて?」 と言って、組み敷いた。 ただ、確かめてみたかっただけだった。 確かめて、それからなど、考えていなかった…。 “ほんの、好奇心”だったのに―――。 [*前へ] [戻る] |