〜chocolatre〜
〜interlude〜
気を失った祐輔を、屋上に設置されているベンチに寝かせ、手早く、身繕いをすると、教室に降り、“用件”を片付け、また屋上に戻って、後始末を済ませる。
それでもまだ、ぐったりと目を閉じている、祐輔の半身を起こした。
「オイ、起きろ」
軽く、頬を叩いてみるが、目を覚まさない。
「…仕方ねぇな…」
持ってきた祐輔のカバンを肩に掛けると、祐輔を背負った。
二階から一階の踊り場まで来たところで、上がってくる人影に気付いた。
―――白浜か…。
確か、二年の時の英語はコイツだった。教師たちの中でも、何故だか、気に入らない教師たちの中でも、一際、好きになれない。
すれ違い、数段降りた時、白浜に呼び止められた。
「堂本君?その子、どうしたの?」
驚いて思わず立ち止まってしまった。
自分に怯えきっている教師達は、やむを得ない用件でもない限り、話し掛けてなどこない。白浜もその例に漏れず、これまで必要最低限の会話しかした事がなかった。
「二年の江井君だよね?」
まして、“見るからに被害者”を連れている場合など、『触らぬ神に何とやら』である。
「…貧血起こしたらしいんで、保健室に」
「そう、偉いね」
―――偉い、か…。
背中の祐輔が、ずり落ちそうになってきた。軽く、身体を揺すり、背負い直すと、
「じゃあ…」
「ああ、ゴメン、ゴメン。早く、連れていってあげて」
「それじゃ…」
振り返る事なく、階段を降りて行った。
だから、気が付かなかった。
二人を見送り、
「さよなら…」
そう、言った白浜が口元に、酷薄な微笑を浮かべていた事に…。
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