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〜hot chocolate〜
2
―――宿題が。
昼休みに携帯を見ると、堂本からメールが来ていたが、『今日は宿題がありまして』と断った。
相田にはもう、関わるような理由はないし。
このまま、今日は何事もなく帰れそうだ。堂本にも相田にも、煩わされないなんて、いつ以来か。
なのに、そんな日に限って、あんな宿題が出るなんて…。

手伝わせようと思った景一は、彼女に呼ばれて、さっさと帰ってしまった。
憂鬱な気分で階段を降り、下駄箱へ向かう途中、呼び止められた。

「ねぇ、江井クン」

振り向くと、同じ二年の、出野安寿子がいた。

「ちょっと、イイかな?」

「な、何だよ?」

学年で、一番の美少女と評判の彼女と、(自慢じゃないが)話した事がない。そんな、安寿子に話しかけられて、悪い気はしない。が、突然、話し掛けられて、ドキマギしてしまう。

「ちょっと、来て」

「ちょっ―――!」

こっちこっち、と腕を取り、引っ張られた。
ふっ…と、女の子特有のイイ匂いが鼻を擽る。

(うお!)

階段を駆け下り、二、三年の校舎と、一年の校舎の間にある中庭に連れて行かれた。中庭にある、大きな楠の下まで来るとそこで、安寿子は、ぱっと、腕を離し、フワリとスカートを翻し振り返ると、言った。

「メアド教えて?」

「え?」

―――もしかして、これは?

期待に胸が躍る。

「江井クンって、最近、センパイ達と仲イイよね?」

「は?」

「だ〜か〜ら〜、堂本センパイか、相田センパイのメアド教えてくれない?」

―――そういうことか…。

「て、いうか、二人とも知ってるんでしょ?ね、お願い」

と拝むように顔の前で手を合わせている。

―――まぁ、オレがモテるワケないか…。

「あー、悪い、教えられねェ」

「え?何で?」

安寿子の声のトーンが一気に下がる。

「いや、だって、一応、本人に訊いてみないと」

例え、イヤな相手だとしても、本人の許可無しに、第三者に教える事は躊躇われる。

「えー、イイじゃん。ケチ!」

と安寿子はグロスで艶やかな唇を尖らせた。

―――そういう問題か?
少し、安寿子への評価が下がった。

「じゃあ、アタシの教えるから、センパイに伝えてくれない?」

ホラ、早く、とカバンを奪い携帯を漁られそうな勢いに飲まれ、強制的にアドレスを教えられてしまった。

「アンタはメールして来ないでね」

頼んだわよ、と捨て台詞を残して行ってしまった。

めんどくさい…。
何で、オレがそんな事しないといけないんだよ。

が、次の瞬間、はたと思い至った。

―――これで、二人の興味が自分から逸れはしないかと。
やっぱり女の子が良い、と、野郎で遊ぶのよりも楽しい、と目を覚ますに違いない。
思わず顔がニヤけてしまう。
なんて良い日なんだ。

足取りも軽くなる。

明日にでも、二人に紹介しよう。

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