〜hot chocolate〜
8
―――良かった、いない…。
少し意識を失っていたらしい。
気が付くと、室内に堂本はいなかった。
ゆっくり、ベッドから身体を起こす。
布団を汚してしまった。
後で、カバーを剥がし、洗っておかないと―――。
服を着て、フラリと部屋を出た。
(腹、減った)
何か、食べようとリビングに足を踏み入れて固まった。
―――リビングに、堂本がいた。
「な…んで……」
「ちょうど来たぞ」
リビング中に、香ばしいチーズの匂いがする。
まだ、堂本が居たことも、美味しそうな匂いがすることにも、驚いた。
更に、テーブルを見て、言葉を失う。
「な……」
どう見てもLサイズのピザの箱が、山積み。更に、サイドメニューと思われるモノがテーブルを埋め尽くしている。
「これ…」
「適当に頼んどいた」
「え……、住所は…?」
「携帯見た」
「……」
「食え」
そういえば、母からピザでも頼みなさいと言われたが。まさか、堂本がピザの出前を取るとは思わなかった。
しかも、積まれた箱から見て、明らかに、渡された額を超えている。
「あの…お金…」
「ああ、払っといた」
「……払います」
「別に、いい」
「いや、でも―――」
「早く、食え」
ギロリと睨まれ、
「い、いただきます」
ご馳走になる事にした。
「ごちそうさまでした」
祐輔だとて、高校男子だ。決して、小食ではない。Mサイズくらいなら一人でイケる。
が、堂本には敵わない。
堂本一人で、Lサイズ二枚は食べている。その上、サイドメニューもかなりの量、食べていた。
(見てるこっちが腹一杯になるよ…)
「もう、イイのか?」
「…はい、頂きました…」
「もっと、食って運動して、体力つけろ」
「…え?」
「だって“一発”で気ぃ失われてもな」
と、堂本が“一発”にイヤなアクセントを置いて言うと、ククッと笑った。
「…な!」
急に、胃が重くなった。
(さ、さっきのピザが重い…)
ガチャリとドアが開いた。父親が帰ってきた。
「ただいま…って、お?お客さんか?」
「お邪魔してます」
堂本が母の時同様、礼儀正しく挨拶をする。
「いらっしゃい」
と、匂いからか、箱を見たのか、ピザに気付いたらしい。
「お、ピザか」
箱の多さに改めて気付いたのか、
「今日は豪勢だなあ」
と暢気に言って父も席に付いた。
「いや、先輩の奢り…」
「何?それはすまないね」
「いいんですよ、僕が江井君に、奢らせてくれと無理に頼んだんです」
「そうなのか?」
「…え…いや……」
「そうなんですよ」
「そうかい。でも、そうはいかないから、受け取ってくれ」
堂本にいくらか渡すと、
「じゃあ、いただきます」
と、どこまでも暢気に言って、父はピザに手を伸ばした。
それから、好青年の仮面を被った堂本と、父親は楽しそうに話が弾んでいる。
何を話しているのか、しばらく話し込んだ後、堂本が腰を浮かせた。
「そろそろ、帰ります」
「お?そうか?またおいで」
「お邪魔しました」
すれ違いざま、
「じゃあ、“また”な」
と、祐輔に囁き、ククッと笑った。
そうして、堂本は両親へ好印象を残し、帰っていった―――。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!