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〜hot chocolate〜
20
あんなに鳴るなんて、どれだけお腹空いてたんだろ。
香ったかと思ったあの匂いも、かき消えてしまった。

(何だか―――)

香りが消えてしまったのも、キス出来なかった事も、少し残念な気がした自分が、可笑しかった。

「ふふ」

中身は把握してはいるが、冷蔵庫を開けて、一応、中を確認し、ドア閉め忘れ防止ブザーを止める為、一旦閉める。冷蔵庫の前にしゃがんだまま、メニューを考える。

―――早く出来るのがイイ、か。

誰かの為に料理するなんて久しぶり。そういえば、堂本に作ったのが最後。
あの日は、遅くまで遊び歩いて、日付が変わろうかという頃に、堂本が『腹が減った』と言い出した。が、そんな時間に開いているような類いの店には行きたくはないと言うので、家に招いて、手料理を振る舞ったのだが―――。

「んー」

―――よし。

品を決めて、再び、冷蔵庫を開け、材料を取り出す。

二人分、一度に作るか―――。
玉ねぎを薄い半月切りにする。鍋に、この間、ガラスポットに作り置きしておいただし汁を入れ火にかける。醤油と味醂を入れ、煮立ってから、鶏ひき肉を入れて、ほぐす。玉ねぎを入れる。

「よし」

煮汁の味を確認して、ふと、ある考えが過った。

『祐輔はおとなしく待っているのか』

―――もしかすると、逃げ帰ってしまっているかも知れない。
そんな事を思いながらも、手は止めず、使った包丁やまな板を洗う。お椀にとろろ昆布を入れておき、丼にご飯を装い、卵を割り、溶いておく。
具に火が通ってから、溶いた卵を流し入れ、火を止める。
余熱でほどよく火が通った卵を、お玉で、ご飯の上にかける。

それから、とろろ昆布を入れたお椀に、醤油を垂らし、湯を注いで簡単なお吸い物を作った。

(まだ、居るかな)

小振りのお盆をお膳にして、一人分の料理を乗せ、一回、深呼吸をしてから、居間へ向かった。



「お・ま・た・せ」

お盆を持って、居間に戻ると、祐輔は大人しく座って、お茶を、啜っていた。

「ささ、召し上がれ〜」

祐輔の分を、置く、と、不思議そうな顔で丼を見つめている。

(あ、そうだ)

あまり、挽き肉では作らないんだっけ。
それとも、怪しんでいるのか―――。

「親子丼だよ。さささ、召し上がれ」

卓袱台を隔てて対座し、改めて、勧める。

「い、いただきます…」

促されて、祐輔が、手をあわせてから、スプーンを取り、軽く掬い、おそるおそる、口に運ぶ。

―――毒なんて入ってないのに。

「ウマっ…」

一掬い、口に入れて思わずというふうに、祐輔から零れた声。

「そう?良かった」

祐輔の表情が緩んだのを見て、ほう…、と息を吐いた。

(良かった)

思ったより、祐輔の評価が気になっていたようだ。スプーンを握りしめたまま、自分は口を付けていない事に気付いた。

向かいの祐輔を見れば、初めの、怪訝な素振りが嘘のように、本当に、美味しそうに食べている。

前回の堂本は、食べている間中、いつもの顔で。苦情が出なかったから、不味くはなかったのだろうが、張り合いがなかった。

―――もう少し、多く作っても良かったかも。

祐輔の丼の中身が、みるみるなくなっていくを見ながら思った。

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