〜hot chocolate〜
1
放課後―――。
「祐輔!帰らないのか?」
景一が声を掛けてきた。
「…う…、ああ…」
「何だよ、久々にお茶でもしようと思ったのによ」
昼休みに携帯を開くとメールが二通来ていた。相田と未来からだった。どちらも、『放課後、遊ばないか?』という誘いのメールだった。
「……もっと早く言ってくれよ…。朝とか…」
基本的に自分は先約を優先させる。あって欲しくはないが、『家族が倒れた』だとか、そういう用件でもなければ、後からどんなに魅力的な誘いを受けても、先約を優先させる。それは、例え、彼女が出来ても、そうありたい。友人と先約があるのに、彼女に呼ばれたからと、先約を反故にするようなコトはしたくない。ソレをわかってくれるコがいいな、と未だ出来る気配もない“彼女”の理想だけある。まだいない“彼女”への妄想を振り切って、景一へ返事をする。
「はぁ…」
溜め息が漏れる。
(…相田、か…)
だからこそ、今日は、先にメールがきた相田の誘いを受ける事にしたのだ。もう一通のメールの相手、未来には断りのメールを入れておいた。きっと、夜には、長い“一日の報告メール”が届くだろう。アドレスを交換してから、初めて来たメールは、何故か文面から伝わってくる程、興奮していて、何を言いたいのか、読み辛く、纏まっていなかった。何とか、纏めると『趣味は何か?』という内容のメールだったので、素直に『ゲーム』だと返信した。すると、未来もゲームが好きだったらしく、落ち着いた後は、ヤリトリが弾んだ。以来、誘いがあれば、お茶したり、ゲーセンに行ったりしていた。
何故だか、妙に懐かれてしまった―――。
会えない日は、毎回、長い、未来の一日の出来事を綴られた報告メールが送られて来る程だ。
「そっか…。わかった、次はそうするよ」
景一がガックリと項垂れた。
「その時は、付き合って貰うぞ」
「ああ、そうしたいよ」
未来は可愛かった。とても無邪気で、話していても、楽しい。ゲーセンに行って、ゲームに勝てば、跳び跳ねんばかりに喜び、負ければしょんぼりとまるでピンと立っていた耳が折れたのが見えるような気がする。くりくりとした瞳、柔らかそうな天然のブラウンの髪と相俟って、ウサギのようだ。弟でも出来たようで、嬉しい。可愛いヤツだ。だが、初めて会った時に感じたように、“女の子のような容姿”に強いコンプレックスを抱いているようで、『可愛いヤツ』だなんて言えなかった。
「今日、彼女はどうしたんだ?」
「んー、友達と遊びに行くんだってさ」
“あれから”。
堂本と相田から、オカシナ選択を迫られてから―――。
二人の誘いから、何かと理由を付けては逃げ続けていた。しかし、それももう、長くは持たないだろう。二人が“直に誘いにくる”事になるだろう、そうなったら、もう逃れられない―――。あっさりと捕まってしまうだろう。
(そして、捕まってしまったら…)
想像するだに恐ろしい。
「そっか。俺も久しぶりに、景一とお茶したかったよ。マジでタイミングが悪かったな…」
「だな。でも、次は、絶対、約束だからな」
「ああ、もちろん。じゃあ、行くな」
「おう、じゃあ、また明日」
ひらひらと手を振って、景一と別れた。
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