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〜hot chocolate〜
17
部屋へ上がると、相田が、卓袱台に向かって座って、お茶を注いでいた。

「ちょうど良かった。お茶が入ったよん。座って、座って」

急須を置くと、傍らの座布団をポンポンと叩いた。
隣に座る“危険度”に、立ち尽くす。
それに気付いたのか、いないのか、

「ちょっと、待っててね」

そう言って、席を立つと、右手の部屋へ消えていった。
それを見届けてから、勧められた、座布団に座って、待つ。
並んだ湯呑みと座布団の、相田の分と思われる方を離した。
今日は、下ろしたカバンはしっかり傍らに置いた。

―――何もしない、って言ってたし。ネクタイ、受け取ったら逃げればいいし。

逃げる事を考えながら、湯呑みから上る湯気を、ぼんやりと眺める。


「ハイ、ネクタイ」

ぬうっと目の前に、綺麗に丸められたネクタイが差し出された。

「うわっ!」

思わず、びくりと、仰け反った。

―――気配がしなかった、し、近い。
仰け反って、離れたはずなのに、近い。
後ろに手をついたまま、後退る。

「ふふ…。そこまで、期待されたら、応えないとね」

「…は?」

ニィ…っと、形の良い唇の、端が上がる。
そのセリフと、笑みに、固まってしまった。
すっと、ネクタイが引っ込められた。
そして、相田は手にしていた祐輔のネクタイを自らの首にかけた。

「あっ…!」

目の前にあった目的の物をまた攫われた。
直ぐに、取り戻せば良かった…。
臍を噬んでも、遅い。
相田が、じっと祐輔の瞳を見て、ゆっくりとした仕草で、結んでゆく―――。
長い指が、しなやかに動く。まるで、艶やかな女の長い髪を絡め、遊んでいるような、艶かしさを感じさせる。シュルリ…と布の擦れる音がする。

―――何か…。
締めるのが、エロいって……。

日頃、自分が行っているのと同じ動作には見えない。
その上、相田の首にかかると、“制服”のはずのネクタイが、どこかのブランドモノにさえ見える。
日頃、自分が使っているのと同じ物とは思えない。

―――って、何、考えてるんだ…。
自分の想像力の逞しさに、顔を背け、目を逸らす。

その頬に手が触れた。

「えっ…」

クッと、相田の方を向かされ、目が合った。触れる手は、頬を撫で、そのまま耳朶を掠め、髪を梳くように項に回され、頭を支えられる。

顔が近づいてくる、

「あ…」

真っ直ぐに、目を逸らさずに。

キス、される。

心拍数が、上がる。

―――唇が、触れる。

今にも、叫び出してしまいそう。けれど、そう出来ない。

ゆっくりと、迫ってくる唇。

耐えきれずに、ぎゅうっと目を瞑る。呼吸が、止まる。

視界を閉ざしたせいで、相田との距離はわからない。
けど。

きっと、あと、数秒で、数ミリで、唇が、触れる。

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あきゅろす。
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