[携帯モード] [URL送信]

〜hot chocolate〜
18
グウゥゥ…

祐輔より、腹の虫が悲鳴を上げた。

「ぷっ」

回された手が離れ、遠ざかった気配に、目を開けた。
見ると、顔を背け、吹き出した相田が、そのまま、笑い転げている。
へなへなと力が抜けて、大きく息を吐いた。

かあっと顔が熱くなる。

今、キスしそうだった―――。

あと少しで触れてしまいそうだった事も、そんな状況で腹が鳴ってしまった事も、恥ずかしい。
もし、腹が鳴らなかったら…。あのまま…。

あのまま、触れていたのに―――。

いや、決して、キスしたかった訳じゃないけど。
などと、考えていると、

「ユウユウ、お腹空いてるんだ?」

笑いが治まったらしい相田が言った。

「何か、作ってあげるよ」

「いえ、イイです。それより、ネクタイを…」

―――もう、居た堪れない。

「ま、そう言わずに。ボク、料理、得意なんだよ」

「でも…」

―――もう、長居したくない。

「一人、なんだよね」

「は?」

「夕飯、ボク、一人、なんだよ。一人分作るのも、ねぇ」

頬に手をあて、首を傾げ、困ったような表情でいう。

「それに、一人じゃ味気ないし」

それは、常に一人でいるのが普通な、言い方。
それは、まるで一人な事が当たり前の、口調。

―――食事も一人?

今更ながら、気付いた。この部屋は、“家の一部”だという感じがしない。自分の部屋は、あくまで“部屋”で、壁一枚、ドア一枚、向こうには、他の部屋や廊下があって、家族がいる、“江井家の一角”なのに。
ここは、造りや広さのせいではなく、“部屋”というより、“家”のような雰囲気がある。ここだけで、“家”として成り立ってしまっている。
かといって、作り物めいているというわけではなくて。初めて来た時もそう思ったが、こんな状況じゃなければ、落ち着くだろうなと、思う。
変な言い方だが、生活感があり過ぎる。

それなのに、家族の気配が感じられない“家”。

そんな家で―――。

『自分で作って、自分で食べる』

―――家族ととらないのか。

「ね、軽くでいいから、付き合って?」

「はぁ…」

「そしたら、返すから」

と、自分の首に巻いたネクタイの端を摘まみ、ヒラヒラと揺らした。

「う…」

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!