〜hot chocolate〜
3
(いい加減、タマる)
体育倉庫で犯して以来、祐輔に逃げられている。
―――なんで、この俺が、いちいち、“お伺い”を立てなくちゃなんねぇんだ。
呼び出しても、何かと理由をつけて断られていた。昨日は、家の用事だとかで、逃げられた。今日は、『宿題があるから』と断って来やがった。
飽きるまで、貪り尽くせばいい、そう思うのに、当の祐輔が捕まらない。
何より、女を抱けなくなっている自分が腹立たしい。
あの香りに、飽きがくれば、きっと、元に戻るはずなのに―――。
何もかもが、腹立たしい。
―――今日は、取っ捕まえてやる。
そう思い、祐輔を捕まえにいく途中、見付けた。
祐輔が、女に手を引かれて、どこかへ連れていかれている。
思わず、跡を追った。
―――何だ?
どう見ても、告られている画。
祐輔は、焦って携帯を取り出し、早速、アドレスを交換している。
へらへらしてやがる。
ニヤケ顔で、帰ろうとする祐輔の跡を追い、下駄箱で腕を捕まえた。
「わっ!」
緩んでいた表情が、一気に凍りついた。
―――チッ。
「ど、堂本!…せ…んぱいっ」
「忙しそうで、なによりだな」
「はい?」
「『今日は宿題がある』んじゃなかったのか?」
「は、はいっ」
「そのわりに、楽しそうじゃねぇか」
「…見てたんですか?」
「残念だったな」
「…じゃあ、どうしましょう…?」
おずおずと上目遣いで問うてきた。
「ぁあ?」
「だから、あの…。あのコ、出野安寿子っていうんですけど、どうですか?」
―――“お付き合い”の許可でも取ろう、てことか。
こちらを見る目に僅かに、期待が混じっているのが見える。隠しているつもりのようだが、自分に都合の良い答えが返ってくるのを待っているのが、見え見え。
―――何だ、コイツ。俺に訊く事か?
「いちいち、訊くんじゃねぇよ。お前、頭だけじゃなくて、女の趣味も悪いな」
「はぁ…わかりました」
今度は、落胆が見える。
さっきよりも、あからさまに―――。
「じゃあ、そういう事で…」
腕を振りほどいて、行こうとする祐輔。が、離すはずもなく、
「“どういう事”だ」
「…どういうって…先輩は好みじゃないんですよね」
「お前は、ああいうのが好きなのか」
「え?…まぁ…顔は可愛い、と思いますけど」
「マジで、趣味悪いな」
「だったら、断っときます」
「…お前、それでいいのかよ」
「え?まぁ、少し残念ですけど…先輩がそう言うなら、仕方ないですから…」
「『仕方ない』?」
「あ、いや、先輩がイヤだって言うなら、その通りですっ」
慌ててそう言うと、
「それじゃあ」
と、今度こそ、逃れようとする。腕は離さない。離れない腕に、泣きそうな、困惑したような表情で、祐輔が、訴える。
「あ、あの、本当に今日は宿題が多くて、ですね…その…」
心底、困っているような表情に、嘘をついているようには思えなかった。
(本当に、宿題があるというなら…)
「俺が教えてやるよ」
「いえ、け、結構です」
祐輔が青ざめた。
「俺じゃ不足か?」
「そうではなくてデスネ……」
「行くぞ」
「ど、どこへ?」
「家」
「え?」
「俺の家」
「あ、あの、ファミレスとか…」
「騒がしい」
「だったら、図書館とか―――」
「落ち着かない」
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