〜hot chocolate〜 9. 三年の教室を半分通り過ぎたところで、目的地の察しがついた。 ―――屋上…。 三年の下駄箱側の三階に、屋上へ続く階段がある。 本来、生徒に開放されている場所らしいのだが、不良の、というより、堂本と相田の溜まり場と化していた。 一般生徒は(不良達でさえ、堂本か相田がいなければ)利用出来なくなっていた。 屋上へ向かう階段を、踊り場まで上がったところで、堂本が止まる。祐輔を捕らえていた手を放すと、更に二、三段上がり、腰を下ろした。ただの階段が、王座に見える―――。 「コーラ、買ってこい」 「え…?」 ―――パシリ? 「三分で戻ってこい」 買えるのは、一番近くて、外の自販機。ここからだと自分の足では、走っても“片道”二分はかかる。 ―――逃げてしまおう。 どう転んでも、碌な事にならない気がする。適当に返事をして、逃げよう。 斜め掛けにしているカバンのショルダーストラップを握りしめる。 「は、はい」 走り出そうとした背中に、声がかかった。 「カバンは置いていけ」 数分後。 ゼイゼイと肩で息をしながら、見上げる。計ったわけではないが、どう考えても、三分以上経っている。 ―――間に合わなかった。 「…す…みま…んで…した」 ペットボトルを差し出す。走って振ってしまっただろう、今、開ければ、確実に中身が噴き出す。不興をかうわけにはいかない。 「…あ…の…走っ…てきたんで炭酸…」 堂本はコーラを受け取ると、興味無さげに、傍らに置いた。 じっと、上から視線を感じる。 息を整える。じわりと汗が滲んできた。 沈黙が、流れる。 徐に立ち上がると、堂本が降りてきた。 ぐいっ 胸ぐらを捕まれ、引き寄せられた。ふわりと、堂本の香水が香った。 首筋に息がかかる。 ―――な、なに? 「…違うな」 [*前へ][次へ#] [戻る] |