〜hot chocolate〜
26
翌朝―――。
早起きのせいでぼーっとする頭で、通路で相田を待った。
運動部の朝練の生徒が来ているが、当然、既にグラウンドにいる。後は、文化部の練習か、日直やらで早く来た生徒、そして、教師が、チラホラと通る。
狙い通りの、人の通り具合だ。
「くぁ〜」
自分で指定しておきながら、眠い。何度目かわからないアクビを噛み殺す。
しばらく待っていると、相田がやってきた。
「ハァ〜イ!」
ヒラヒラと手を振りながら歩いてくる、その首には、祐輔のネクタイが緩く結ばれている。
昨日と同じように、花の飾りがついたヘアゴムで、前髪をチョンマゲのように結んでいる。今日は真ん中でではなく、少し左にずらして結んだ頭で、カバンも持たずに、フラフラとやって来た。
フラリと歩いているだけなのに、廊下がまるでランウェイのように見えてくる。さながら、制服を見せるモデルのようだ。
一瞬、見惚れてしまった頭を振り、目を覚ます。
(自分のネクタイはどうしたんだろう?)
と、思ったが、知ったこっちゃない。
下駄箱から来たように見えたが、きっと、教室から降りてきたんだ、そうに違いない。
「ゆっぴょん、おはよー」
挨拶と共に、呼ばれた名前―――。
ゆっぴょんに決定したらしい。
「…おはようございます」
訂正する気にもなれず、げんなりと挨拶を返す、と
「何、それー。やりなおしー」
やり直しを要求された。
「おはよう、ございます?」
アクセントを変えて言い直してみる。
「ちがう〜、決めたじゃない。ここは、可愛く、にっこり笑って、『おはようホズミン』でしょ〜」
―――いつ、決めた?
何故か、恥じらった様子で相田に“ダメ出し”され、“演出”される。
「で、抱き着いてくる、っていうのもアリ!」
―――なにが、アリなんだ…。
「お、はよう…ございます…せんぱい」
「つまんない」
ぷい、と顔を背けてしまった。
「あの―――」
こんな事で、長引いては厄介だ。何より、相手をしきれない。
「ネクタイを返して下さい」と続けようとしたその前に、祐輔が言おうとしている事に気付いたのか、相田が、
「ああ」
しゅる…と自分の首に結んでいた祐輔のネクタイを解く。
「ハイ、忘れ物」
すっと、近寄り、ネクタイを祐輔の首にかけた。
その手が、襟を立て、それから、左右の長さを調節し始めた。
どうやら、結ぼうとしてくれているらしい。
「あの、自分で―――」
「いいから、いいから」
妙に距離が近い気がして、目線を、逸らすように下に落とす。
相田が、ネクタイを結んでいく。
結び目の形を、襟を、整える。
器用に指が動いているのを、ぼぅ…っと見ていた。
「ハイ、完成」
その声に、ハッとして、一歩、退こうとした、が、その前に―――。
「もう、一つ」
相田の手が、上に移動した。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!