〜hot chocolate〜 7. 教室に着く。 どうしても、あの席に目が行ってしまう。 昨日…。昨日、あの椅子で…。 その席の主、何も知るはずもないクラスメイトが、前の席の生徒と歓談している。 引き剥がすように視線をそらすと、自分の席に着いた。ぐったりと机に突っ伏していると 「おいーっす!」 前の席の、出川景一に背中を叩かれた。 「おぅ…」 机に顔を埋めたまま、声だけで、挨拶を返す。 「なぁなぁ、昨日さぁ…」 幼馴染みの景一。最近、景一に彼女が出来た。 どうやら、昨日、その彼女とケンカしたらしい。 席に着くなり、ノロケとも愚痴ともつかない、話をし始めた。 「て、昨日、お前にメールしたのにさー」 わざわざ取りに戻った携帯だが、夕べは触る事はなかった。朝になっても、着信があるのには気付いたが、開かずにいた。 返事もせず、起き上がりもしない祐輔に、 「テンション、低いなー。寝起きか?」 と顔を覗き込んできた。 「…あー、ちょっと寝不足なんだよ…」 忘れよう。犬にでも噛まれと思って…。 もう二度と会う事はない。会いたくない。もし、万が一、会ってしまったとしても。今後こそ、何を要求されても、拒否しよう。例え、殴られるような事になっても…。 それから…。 祐輔の願い通り、堂本とも、相田とも、会う事もなく、いつもと変わらない平和な日常に戻っていた。 しかし。 その“平和な日常”は数日しか持たなかった―――。 [*前へ][次へ#] [戻る] |