〜hot chocolate〜 3. 「あったぁ…」 携帯は、最初の予想通り、自分の席にあった。 一先ず、無くしたとなれば訪れる、「買い直すならアナタのお小遣いからよ!」という母の脅威からは免れた。あとは…。 帰りは、来たのとは反対側の階段へ向かえば、あの二人の前を通る事もない。 それでも、長居しないにこしたことはない。目的の物をポケットに仕舞うと戸口へ振り返った。 瞬間、息が止まる。 その戸口に、二人が立っていたのだ。 もう一方の出入口へと、向きを変えて歩きだそうとした。 そこへ 「ねぇ、ちょっと待ってよ」 と暢気な声がかかった。反射的に、足が止まる。が、そちらを向く事も、無視して逃げ出す事も、出来ずにいると、今度は、 「いや、いいから、行け」 と低い声がした。 ―――う、動けない…。 どちらかに従えば、どちらかに叛く事になる。勿論、後者に従いたいが…。 「そう?じゃあやっぱり、ボクの勝ちね」 「何、言ってやがる、コレは無効だろ?つーか、こんなモン、ヤメだヤメ」 「えー、何それー」 「もともと乗り気じゃなかったんだよ」 ―――さっきから、揉めているが、その事と自分に何か関係あるのだろうか? 「でも、乗ったよね。一度乗った勝負、降りるの?」 「そうじゃねぇだろ。コレは対象外だろ」 「対象外?」 「…コイツ、男だぞ?」 「ああ、そう、やっぱり逃げるんだね」 「だから、コレは対象外だろ!」 ―――“コレ”とは自分の事だろうが、何の対象なのだろう? 「えー?ボク、たぶん平気かも〜」 「ぁあ?」 「そもそも、日本じゃ衆道って言ってね〜、武士の嗜みだったんだし。嗜みだよ、た・し・な・み」 ―――シュードー?タシナミ? 「…お前に同意を求めた俺が悪かった」 ―――逃げよう…。 何だかよくわからないが、逃げた方がいい。二人が話しに夢中になっている間に、逃げよう。 そう決めて、走り出そうとした。 が、あっさり腕を掴まれてしまった。一瞬で距離を詰められたようだ。相田だ。振りほどこうとしてみるが、ビクともしない。しかも、こちらを見ることもなく、何事もなかったように話を続けている。 「じゃ、ちーちゃんが、『負けが目に見えてるのがイヤで逃げ出す』ってコトでいいの?」 「ちょっと待てよ。こんなモン、普通、相手は、女だと思うだろ?大体、ゴリ田とかならお前だって、ナシだろ」 腕すら振りほどけないとわかって、いよいよ、足が竦む。 [*前へ][次へ#] [戻る] |