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〜hot chocolate〜
2.
すっかり人気のない校内。
下駄箱は一階の端にある。それぞれ二年と三年に分かれている。下駄箱の隣に階段があり、朝は皆、そこから教室へ上がっていく。

階段を上がって、廊下へ曲がった瞬間、舌打ちが聞こえた。
廊下の中程、窓側の壁を背もたれに、座り込んでいる二人の人影に気が付いた。

一人は三年の堂本千晴。ゆらりと、怒気をはらんだオーラを纏って、目にかかる黒髪の下から、こちらを鋭く睨み付けている。
もう一人。同じく三年の相田穂積。明らかに校則違反の域に達した長さと色をした髪。堂本とは対象的に、キラキラと、嬉しさを隠しきれない眼差しを向けている。

二人とも、校内でかなりの有名人である。


入学初日に、校内の不良グループを統括したとか。
二人だけで、他校の生徒、数百人と渡り合っただとか。
暴走族の“頭”だとか。

一般生徒相手の噂もある。
肩がぶつかっただけで、腕の骨を折られたとか。
目があっただけで、病院送りにされたとか。

更には。
どこかの“組”からお声がかかっているとか。
すでに、一員なのだとか。
そうではなく、実は、“跡目”なのだとか。


その武勇伝、噂から、不良と呼ばれる生徒達からは、崇められている。
勿論、一般の男子生徒からは、畏怖の対象となっている。
通常なら停学や退学になってもおかしくないはずだが、何故か教師達ですら、手を出さない。

一方で女子生徒からは…。
種類は違うが、ともに下手なイケメンタレントよりも整った美貌。日本人離れした、モデル並のスタイル。その容貌ゆえに、人気は絶大。
その上、堂本に至っては、成績優秀・スポーツ万能。(目立った話は聞かないが、相田も堂本と共に、修羅場をくぐり抜け、肩を並べていられるからには、運動能力は相当なものなのであろう)
数々の噂すら、強くてカッコいい、として魅力の一つなのだそうだ。

そんな二人に、一般男子生徒である祐輔はこれまで近寄った事すらない。単純に学年が違うせいもあるが、遭遇しそうな場所には、近寄らないようにしている。
絡まれでもしたら…と思うと、ゾッとする。殴り合いの喧嘩なんてした事もないし、したところで強くもないだろう。そんな自分が、うっかり関わって、痛い目になど遭いたくない。

その二人の前を通らなければ、自分の教室へは行けない。
しかも、何故だかわからないが、二人ともこちらをみている。堂本にいたっては、射殺さんばかりに睨んでいる。

「…コレはナシだろ…。次だ、次」

「じゃあ、ボクの勝ちね」

「なんで、そうなる?」

「だってさー…」

どうしよう?

早くしないと、校内から閉め出されてしまうし。いくら何でも、前を通っただけでは何もされまい。寧ろ、このまま引き返して、逆に「俺達がいちゃ通れないとでも?」と因縁をつけられないとも言えない。
そう思い、意を決して歩を進める。何か、話しているようだ、とはわかるが何を言っているか、耳に入って来ない。ドキドキと心臓の音しか聞こえない。ひたすら、無事通りすぎる事だけを祈っていた。

何kmにも思える距離を進み、やっと教室へたどり着く。飛び込むように中へ入ると、急いで戸を閉め、一息ついた。

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あきゅろす。
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