〜hot chocolate〜
1.
あの日。あの時。あの場所で。
ああ言えば良かった、ああすれば良かった。
後になってそう思う事がある。
逆に、あんな事言わなければ、あんな事しなければ良かったと思う事もある。
あれがまさにそう。
あれがすべてのきっかけ。
それまで、親や友達とケンカしたり、“それなり”の揉め事もあった。進路だとか、誰が好きだとか、嫌いだとか…、“それなり”の悩みもあったが、“それなり”に平和にやってきた。
けれど。
そんな“それなり”の平凡な日常が消えてしまった。
そう、忘れ物など取りに行かなければ良かった。
忘れたのは、携帯電話。
気が付いたのは、家に着いてからだった。
どうも教室に忘れてきたようだ。
紛失したわけではない。
どこに忘れてきたか、わかってもいる。
そうであれば、家にだって、電話はあるし、パソコンだってある。一晩くらいなくても構わないはずだ。
しかし、その“一晩”が気になる。
携帯がない―――。高校生にとっては、たかが“一晩”、されど“一晩”だ。
手元に無い不安感が、気になって、部屋にカバンだけ置くと学校に取りに戻る事にした。
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