〜hot chocolate〜
16
「おっはよー、ございまーす」
朝早く、ガラッと職員室の戸を開ける。空気の凍った、未だ全員揃っていない職員室で、既に来ていた白浜に声を掛ける。
「白浜センセー、今、平気ですか?昨日の話の続きがあるんですけど…」
「…いいですよ。どうしたんです?」
「…やっぱり、ココじゃ話し辛いんですけど…」
「…じゃあ、生徒指導室に行きましょうか」
「はい!」
「…で、今度はどうしたんですか?」
生徒指導室に入った途端、白浜が、呆れた口調で言った。
「コ・レ、プレゼントっ!」
ポケットから出し、再生ボタンを押したボイスレコーダーを白浜へ放った。素早く反応した白浜が見事にキャッチした。
「…何ですか?…コレは?」
「イヤだなぁ、見てわからない?ボイスレコーダーだよ?」
『迂闊な事を漏らす訳がないじゃないですか』
勝ち誇ったような白浜の声が流れる。
『それに、もし仮に、そんなモノが存在するとして、自分を一緒に映すと思うかい?“愉しむ”には、自分は映ってなくても、充分だからね』
「―――っ!」
苦虫を噛んだような表情で白浜が電源を切る。
「一台だけだと思った?あ、中身はもう、パソコンに落としてあるから、ソレは記念にあげるよ」
にっこりと微笑しながら言った。
「本当にイイ感じに喋ってくれたよね?ゆっぴょんの名前出さずに、自分に不利になるコトばっか」
「……」
「ボクが『イタズラされた』って訴え出た後、コレ、聞かされたら、皆、どう思うだろうね」
微笑みを浮かべたまま、告げる。
「イタイケな生徒と仮面の剥がれた教師の言う事、どっちを信じると思う?」
「“イタイケ”、ね」
白浜が自嘲気味に笑う。
「父に色々話すのも、面白そうだけどね」
―――相田の父親。
地元の名士だ。教育委員会や各方面にも顔が利く。
本来なら、父親に頼み事するなんて、死んでもやりたくない。しかし、祐輔の為ならば。
「やれやれ、やっぱり若いね。そういう“熱い”のはイヤなんだよ」
白浜が肩を竦め、溜め息を吐いた。
「それに、お父上は面倒臭そうだしね」
「じゃあ、そういうコトで、ゆっぴょんに二度と関わらないでね」
白浜が降参、という風に両手を上げた。
「わかったよ」
「良かった。それじゃ」
ドアを開け、部屋を出ようとした背中に声が掛かった。
「一つ、忠告してあげるよ。あの香り。“ああいうコ”は、一人じゃないよ?」
「違うよ。祐輔は、一人、だよ」
そう言って、部屋を出るとドアを閉めた。
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