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〜hot chocolate〜
11
教室に戻ると、自分の席に堂本が我が物顔で座っていた。他クラスの堂本の来訪に、クラスメイトは慣れっこになっていて、二年の教室とは違って、静かなものだ。

「あれ?ちーちゃん、どうしたの?」

「…『どうしたの』じゃねぇよ。どこ行ってた?」


「ちょっと、ゆっぴょんの所にね」

「……」

「で、なあに?」

と、尋ねると

「…美味かった」

堂本がズイッと空の重箱を差し出した。

「本当?良かった。でも、ちーちゃんが感想言ってくれるなんて、珍しいね。何かあったの?」

「…うるせえ、何もねぇよ」

「ま、いいや。ありがと。お粗末様でした。あ、ちーちゃん、今日はゆっぴょんのコト、よろしくね」

「…ああ、わかった」

そう言うと、席を立ち、教室を出ていった。



「しっつれい、しまーす」

放課後、ガラッと職員室の戸を開ける。動かなくなった教師達の中、一人、変わらず、作業している白浜に声を掛ける。

「白浜センセー、今、平気ですか?相談したいコトがあるんですけど」

「いいですよ。どうしたんです?」

「…ちょっと、ココじゃ話し辛いんですけど…」

「じゃあ、生徒指導室に行きましょうか」

「はい」



生徒指導室に入った途端、白浜にしなだれかかった。

「どうしたんですか?相田くん?!」

驚いた様子の白浜は肩を掴み、引き剥がそうとしてきた。しかし、すがり付くようにしがみついて言った。

「ボクの事、好きにしていいから、返して下さい…」

「相田君、一体、どうしたんですか?」

「返して下さい」

もう一度繰り返す。

「何を、かな?」

「とぼけないで下さい。撮ってたんでしょう?」

「何の事だかわからないな」

白浜が、何を言われているのかわからないという風に言う。

「先生が撮ったデータです」

「データ?」

「“あの時”脅すつもりで撮ったんでしょう」

必死に訴え掛ける演技をする。

「データ?脅す?言いがかりをつけるのは止めてくれませんか」

「言いがかり?自分がしたコト、覚えてないんですか?」

今度は泣き出しそうなフリをする。

「…なるほどね」

ずっと相田を引き剥がそうとしていた白浜の力が抜け、態度が一変した。

「……?」

「そんな事より、ポケットの中身を出してもらおうか」

「何の事?」

「君がこんな事するのは理由がある」

「理由?」

「君のことだ、ちょっと誤解を招くような言い回しをしたら、それを言質にとるつもりで、録音でもしてるんだろう」

「―――っ!」

「何もやましいところはないけど、録られるのはイヤだからね。渡して貰おうか」

俯き、下唇を噛む。思わず握った拳が震える。

「素直に出さないなら、“他の”方法を取るけど?」

危険な気配を感じ、白浜から、バッと離れる。

「どうします?勝てると思いますか?」

白浜が身構えた。昨日は、頭に血の上った自分と堂本、二人がかりで、一発も掠りもしなかった。

「…っ…」

キッと白浜を睨み付ける。

「イイコは好きですよ」

大人しくポケットからボイスレコーダーを取り出すと、白浜へ渡した。


「迂闊な事を漏らす訳がないじゃないですか」

白浜はレコーダーの電源を切ると、勝ち誇ったように喋り出した。

「それに、もし仮に、そんなモノが存在するとして、自分を一緒に映すと思うかい?“愉しむ”には、自分は映ってなくても、充分だからね」

「―――っ」

「ただ、残念ながら、昨日は家に連れ帰ってから撮るつもりだったからね。その前に、邪魔が入って、“お愉しみ”は台無しになってしまったけどね」

相田が項垂れる。

「まあ、全部、“仮”の話だけどね。もうこんな事はしないようにね」

と言って、白浜は生徒指導室を出ていった。
一人、生徒指導室に残された項垂れていた相田の口角がニヤリと上がった。

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あきゅろす。
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