〜hot chocolate〜
6
心配していた二人の休み時間の来訪はなかった。
四時限目にあった白浜の授業も無事だった。
本当に、大丈夫だった。
公衆の面前で、何かしてくるとは思ってはいなかったが、顔を合わせても、表情すら変わらない。まるで何もなかったかのように、いつも通りの授業が進んでいった。白浜からは、後ろめたさや悪びれた様子がない。
(何なんだよ!)
意味アリ気な素振りすらも見せない。それはそれで、腹が立つ。教壇に立ち、いつも通り授業を進めていく白浜を睨み付ける。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り響いた。
「はい、今日はここまで」
白浜が教材を纏め、戸口へ向かった。戸へ手を掛けた時、くるりとこちらを向くと、
「そうだ、江井くん。お昼休みに生徒指導室に来るように」
と、満面の微笑みで言い、返事も聞かずに出ていった。
「よう、祐輔、何、仕出かしたんだよ」
景一がニヤニヤとしながら絡んできた。
「…何にも、してねぇよ」
そうだ、オレは何もしてない。
(誰が、行くか!)
ガラッ!
「何もしてないヤツが呼ばれるなんて―――」
友人が呼び出しを喰らって、楽しくて仕方ない様子で、更に絡んで来ようとした景一が、喋ってる途中、戸の開いた大きな音に反応して戸口を見て、固まった。教室の空気が一変する。
「きゃーっ!」
女子の歓声が上がる。男子の血の気が失せる。皆の視線の先、戸口を見ると今朝、相田に渡された大きな弁当箱を持った堂本が立っていた。
(―――堂本!)
堂本の周りを見てみると、相田はいなかったが、堂本が本当に来るとは思わなかった。女子の波を掻き分けて、ズカズカと教室へ入ってくると、真っ直ぐこちらへやって来た。景一の硬直が強まる。
「昼飯出せ。行くぞ」
有無を言わせない口調。
(…はぁ)
心の中で溜め息をつく。一緒に、昼食を取ろうということか。イヤと言った所で、無理矢理、連れて行かれるのだろう。ならば、そうなる前に素直についていこう。
「…はい。景一、ちょっと行ってくるな」
弁当箱を持つと、固まったままの景一にそう言って、堂本と共に教室を出た。
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