〜hot chocolate〜 1 ―――何なんだよ!何で、何で…。 家に着き、部屋へ入る。 カバンを足元に落とすと、ベッドにバタリと倒れ込み、枕に顔を埋めた。 また、逃げられなかった―――。 あと少しでも、強ければ、逃げきれたのだろうか。 その、爪を、牙を、ちらつかされただけで、ほんの少し、首を掴まれただけで、逆らう事も出来なくなって…。 いや、中途半端にやり返せば、『大人しくさせられてからヤラれる』事になるだけだったろう。 全く、一体、何が面白いのか。 ―――もしかすると、ヘンなモノでも食べたのかも知れない。 そうでもなければ、考えられない。 一回だけならまだしも…。いや、一時の気の迷いにしたって、限度があるだろう。 何だって、あんな事…。 それでも、一回だけならまだ…。 それなのに―――。 二度目ともなると(ある意味三度目、だが)、何か、麻痺してしまった気がする。初めほどのショックはない。 だからといって、受け入れたわけでもないし、喜んでもいない。 心の中の(身体もだが)違和感が消えない。 それに、どうしてもわからない。 『何で、オレがこんな目に』―――。 何故、あんな目に遭うのか。 しかも、何故、自分が、なのか。 女に不自由はしていないに決まっているし。そもそも、男に興味があるようには思えない。万が一、あったとして、相手に自分はないだろう。自分の事くらいわかっている。哀しい哉、どう贔屓目に見ても、どこをとって見ても、“普通”の域を出ないという事くらい…。 それを、わざわざ、待ち伏せたり、追い掛け回したりしてまで…。 その上、“次”があるような事を言っていた気がする。 ―――ひょっとしたら、どこかでケンカした際に、頭を打ったのかも知れない。 いや、だとしてもわからない。 仰向けになり、明かりをつけていない蛍光灯をぼんやりと眺めた。 母親の、夕食が出来た事を知らせる声がする。 身体を起こす。 しばらく、そのまま、ベッドに腰掛けていると、また、呼ぶ声が聞こえた。 そこで、ようやく部屋を出た。 もし、万が一、メールか電話がくるような事があったら―――。 とりあえず、理由をつけて断ってみようと思っていた。前回の呼び出しを無視した理由を問われ、「用があった」と答えた時、「だったらそう言え」と返ってきた事を思い出したからだ。もしかすると、すっぽかしたりしなければ、案外、無事に済むのかも知れないし。 いやいや、そろそろ己れのしている事のオカシサに、気付いたに違いない。 もう、呼び出したりなんて、しないだろう。 現に、あれから、メールもなければ、電話もないし。(何時、来るか、とビクビクしているが…) とにかく、避けられる事なら避けたい。 けれど、もう、そこまで、自分に興味はないであろう。きっと、そうだ。 と、ぐるぐると、“甘い事”を考えながら、過ごしていた。 [次へ#] [戻る] |