〜hot chocolate〜 8 今日こそ、決行すると決めていた。 下駄箱で見付けた、祐輔を呼び止めた。 「江井君、ちょっと手伝ってもらえませんか?」 面倒臭そうだな、と思っているのが、顔に出ている。 「すぐ済みますから」 にこやかに声をかけると、 「あ、はい…」 と、“捕獲”に成功した。 口実は、教材整理だった。暫く、意味のない手伝いをさせた。 「先生、これはどこに―――」 振り向こうとした、祐輔の首に手刀を打ち下ろし、意識を奪った―――。 (さあ、視聴覚室へ) “内側からも”鍵が掛かり、“密室”になり、“防音”になる教室は二つ。放送室と視聴覚室。狭く機材で雑多な放送室と違い、広さがあり整理された視聴覚室は、“企み”にはお誂え向きだ。 意識のない祐輔を背負い、資料室を出て視聴覚室へ向かおうと、資料室を出て歩き出した。その時、後ろから声が掛かった。 「あれ?祐輔?白浜先生?」 「ああ、出川くん」 この時間、こんな所に人が来るとは思わなかった。 「祐輔、どうしたんですか?」 (ああ、二人は友人だったな) 「さっき話していたら、貧血で倒れたみたいでね。保健室に連れていく途中なんですよ」 「じゃあ、俺、連れていきますよ」 心配気に景一が言ってくる。 「ああ、いや、私が連れていきますよ。出川くんは帰りなさい」 「でも…」 「大丈夫ですよ。任せて下さい」 と、微笑む。 「…はい、宜しくお願いします」 景一はペコリと頭を下げると、廊下を駆けていった。 (ふう…。やれやれ) ずり落ちそうな祐輔を背負い直し、視聴覚室へ向かった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |