〜hot chocolate〜
12
ずる…と埋められていたモノが抜けていく。
ゆっくりと、目を開いた。
開いて、“あの瞬間”、目を閉じてしまっていた事を知る。
―――あ…れ?シャツ、シワシワ…。
確か、ちゃんとしてた気がする……。
身体を離す相田の、シャツが目に入った。
「…あ…」
シワだけではなく、祐輔が放った白濁が、相田のシャツを汚していた。
「ああ、イイよ」
祐輔の視線を辿り、己れのシャツの有り様に気付いた相田は、
「あ、ちょっと待ってて」
と言って、障子の向こうへ消えて行った。その隙に、と身体を起こそうとする。
―――ダルい…。
射精後の独特の、脱力感。そして、開いた事のない角度まで、割り開かれた足は、慣れない運動をした後のような疲労感を漂わせている。
ダルくて、動きたくない―――。
相田が、手にタオルを持って戻ってきた。別のシャツに着替えもしている。
いない間に逃げたり、開けたシャツを纏っただけの身体を隠したりする事も考えられず、ただぼうっと相田を目で追う。
傍らに座る。腰を支えられ、下に置かれていた座布団が引き抜かれた。ゆっくり降ろされる。
また、何をされるのか、とビクリと身体が強張る。
「ちゃんと拭こうね」
相田が、それをほぐすように、柔らかい声で言うと、腹部を拭き始める。
そこで、相田のシャツだけでなく、自分の腹も汚していた事に気付いた。お湯で濡らされ、固く絞られたタオルは、ほんのり温かくて、気持ち良かった。
腹を、身体を、キレイに拭き取ると、脱がした、祐輔の下着とズボンを持ってきた。
「一人で、着られる?」
『着られない』と言えば、着せられてしまいそうだ。そこまでされたくないし、まだ、動きたいとは思えないがそれでも、少し、気力が回復した。
身体は起こしたものの、立つのが億劫だ。座ったまま、何とか着る。
相田が、傍らにしゃがんで、ニコニコと見ているのを感じたが、無視した。
着終えると、ズリズリと、衣桁まで移動する。それを見ていた相田が、
「帰るの?休んでいったら?」
「結・構・ですっ」
ヨロヨロと立ち上がった。
ブレザーに袖を通し、カバンを肩にかけた。ふらりと蹌踉めきながら、
「帰りますっ…」
物凄く、イヤな事だが、きっと“話”は終わったのだろう。
玄関へ向かう。
「大丈夫?送ろうか?」
「誰の所為だ」と言いかけて、止めた。
半分は、自分の所為だ。
無警戒だった、自分の。
「…平気です。一人で帰れます」
しかし、相田は、離れを出ても、ついてきた。
後ろに付き添うようについて、『送る』『一人で帰れる』のやり取りを繰り返し、とうとう門扉まで、来た。あまりのしつこさに、立ち止まり、キッと振り返り、
「一人で帰れますから」
言い切った。
「そう?」
すると、少し不満げな表情をしながらも、ようやく折れたようだ。
「じゃ、気を付けて、ユウユウ。またね」
「……」
目の端に、相田が、門に寄り掛かり、芝居掛かった動きで手を振っているのが見えたが、もう何も返す気になれなかった。
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