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おはなし3

 ベッドにどさりと横になり、ぼんやりと天井を見る。まだ小さいときに父親が蛍光塗料で書いてくれた星々が、明るい日差しの中でやけに安っぽく見えて真由はますます空しくなった。
(どうして大人はこんなに急がせるんだろ。)
今何がしたいの、と聞かれても、今の真由には答えることが出来ない。何もしたくないわけではないけれど、部活で走ること以外、何がしたいのか、何が出来るのか、模索すら出来ないのだから。
どこを探せばやりたいことが見つかるのだろう。出来ることが見つかるのだろう。
 窓の外に目をやって、真由は大きくため息をついた。
(気分転換にコンビニでも行こう。)
起きた時のままで、髪はぼさぼさ、Tシャツとハーフパンツという格好だったけれど、着替えるのが面倒でそのまま行くことにする。
「お母さーん、私ちょっとコンビニ行ってくるからー。」
玄関から間延びした声で母親に声をかけるとビーチサンダルを履いて外に出た。
(うわ、あっつ…。)
途端にセミの鳴き声が大きくなり、汗がじわりとにじみ出る。
何でもいいからアイス買ってきて、と母親の声が締まりかけたドアの隙間から追いかけてきたが返事はしないで自転車にまたがった。
 風を切って公園を突き抜ける。
大きな池のぐるりに作られた遊歩道はどんぐりの森に囲まれていて、夏でも涼しい風が吹く。蝉の声はうるさいが森の中ではそれすら葉ずれの音と重なって心地よいハーモニーにきこえるから不思議だ。
深呼吸しながら、そういえば、みんなとここも走ったなぁ、とぼんやり思った。

 五分ほどで着いてしまうコンビニエンスストアはとても涼しく、汗がすっと引いて肌寒いくらいだった。しばらくの間ダラダラと雑誌を立ち読みしたり、コスメチックやお菓子の棚を眺めたりしていたが、ふとアイスを頼まれたのを思い出した。
(何でもいいっていうのが一番困るんだよね…)
何でもいいという割には、いつも買ってきたものに対してなにかしら文句を言うのだ。
(まぁ、それは私も同じか。)
含み笑いをもらしつつ、二人分のアイスを買って家に帰ると、遅かったじゃないの、という母親の声に迎えられた。
「あれ、真由、2個しか買ってきてないじゃない。お姉ちゃんの分は。」
「今いない人の分まで買ってこなくていいじゃん。」
「やだ、もうすぐバイトから帰ってくるわよ。」
「そん時はお母さんがまた買いに行けばいいって」
「いやよ。暑いじゃない。よし、じゃあ急いで食べて証拠隠滅しちゃおう。」
母親はそう言うとさっさと袋を開けて食べはじめた。
「あはは、しょうがないなぁ。こんなに慌てて食べたら頭痛くなるよ。」
真由も負けじと競うように食べていたが、そのうち真由の棒には『当』の文字が見えてきた。
「…あ、当たった。」
あら、丁度よかった、それじゃあお姉ちゃんの分は買わなくていいわね、などと母親はのんきなことを言っている。
(でもこれって当たり付きだったっけ)
真由は少し疑問に思ったが、袋は捨ててしまったのでわからない。

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