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おはなし3



  
 トラックの白いライン。
下級生たちの、応援の声がどこか遠くできこえる。
パン、という破裂音に背中を押されるようにして、ただ一本の白いゴールを目指し飛び出す。
刹那、白く霞んでたなびくテープを、真由はスローモーションのように見ていた。
 そして、中学最後の夏が、終わった。



 夏至を過ぎ、セミの鳴き声もいよいよ本番と言わんばかりに激しくなってきた。中学に入ってから、真由はほぼ毎日のようにグラウンドにいた。
野球部員のかけ声と、吹奏楽部のちょっともの悲しいクラリネットやトランペットの音を背景に、毎日、走っていた。
タイムを伸ばしたいとか、大会でいい成績修めたいとか、そういうことではなくて、ただ走るのが気持ちよくて仕方なかった。だけど、最後の夏があっという間に終わったとき、真由はこれから何をすればいいんだろうと、少し戸惑っていた。
 やらなければいけないことが、ないわけではない。受験生だから、もちろん塾に通ったりして勉強はする。別に学校に来なくても、走ることは出来る。
(だけど、そういうことじゃないんだ。)
では一体どういうことなんだと聞かれても、今の真由には説明出来なかったけれど、とにかく無性に空しかった。

「真由、いい加減にダラダラ過ごすのやめなさい。いくら夏休みだからって、あなた受験生でしょ。」
「んー、だってぇ…いいじゃんちょっとくらい。大会終わったんだしー。」
(する事無いんだもん。)
 外は目が痛いくらいいい天気だ。夏休みが始まって一週間、こうやって何をするでもなくソファにだらんと座って、テレビを見たりゲームをしたりして過ごしていた。
「美穂ちゃんなんか、午前中は塾に行って、午後は図書館で閉館までずっと勉強してるらしいわよ。」
母親の小言は終わらない。
「だいたい、この時期に志望校も決めてない人なんて、真由くらいじゃないの。」
「あのね、美穂と一緒にしないでよ。美穂は私とちがって超頭いいし。私立の超レベル高いとこねらってんだってさー。別に私は、志望校は願書出すまでに決めればいいでしょ。公立でいいしまだまだ先じゃん。」
「公立にいってくれるのは助かるけど、行けるとこに行くっていうスタンスどうにかならないわけ。」
「ならない。別に部活出来ればどこでもいいもん。」
部活っていったってそこまで速いわけでもないのにねぇ…。母親の小言はまだきこえていたが、辟易した真由はこっそり部屋に引っ込んだ。

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