和歌集 瞳に光が宿る時(平凡女城主、岩殿山城) 「あれ、また小さい城娘たちに逃げられた?」 「……姫、分かっていて言っているでしょう?」 私の投げ掛けにそう言いながら振り返る岩殿山城は、恨めしそうにじっと私を見つめる。その瞳は普段あまり光を宿さないが、今は僅かに潤んでいるのでいつもよりも感情が透けて見える気がする。 「ごめんごめん、泣かないでよ岩殿山城」 「別に、泣いていませんよ」 「でも泣きそうだったよ。今日は…お菓子作戦?」 「…ええ。和やかに皆でおやつを食べているところで、最後の極めつけに私のとっておきのお話をして皆の心を更に掴もうと…」 それは極めつけじゃない、トドメだ。大方得意のブラック昔話でもしたのだろう。 目の前の岩殿山城は一体何がいけなかったのでしょう、と首を傾げて真剣に反省と今後の方針を模索している。 ふふ、可愛いな。 自然と岩殿山城の頭に手が伸び、優しく前髪の辺りを数回撫でる。すると岩殿山城はぷう、と少し赤らめた頬を膨らませてまた私を睨みつける。 あれ、もしかして声に出てた? 「もう、姫ったら…。私は真剣に悩んでいるんですよ?」 「分かってるよ。あの子たちだって、岩殿山城のことを本当に怖がってる訳じゃないんだ。ゆっくり距離を詰めていきな」 「……姫…」 岩殿山城を撫でていた方の手がゆっくりと彼女の手に握り返され、そのまま彼女の頬の横まで連れていかれる。答えるように私が軽く頬を撫でてやると、安心したかのように瞳を閉じて小さい吐息を溢す。 この子が良い子だというのは、きっと皆分かってる。ただ、この子は相手との近付き方というのが掴めないだけ。 その笑顔はいつも器用なようで、不器用なのだ。 「ほら、泣かないで」 「…泣いていませんよ」 「泣いてるよ」 彼女の頬を触れた後、私の手はいつも濡れてしまう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |