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キスのお題 4
★僕らは5回のキスをする





「スコール。あんたのファーストキスってどんなだった?」


『ファーストキス』そんな響きが新鮮だった、が。
なぜ、今そんなことを訊く?
たった今、お互いの唇が離れて、手はあんたの服のジッパーを下げたところで、目の前にはくっきりと白い綺麗な鎖骨が俺を誘っている。
いざ勇んでその先を、というところでそんなこと言わなくてもいいだろう?
でも、答えを待っているクラウドの真ん丸な瞳は、無邪気さまでを伴って俺をジッと見つめたままだ。
先を急ぎたい気持ちはやまやまだが、目が合ってしまったらもう敵わない。
俺は少し考えてから口を開いた。


「どんなって…普通だ。相手くらいは覚えてるが特に印象には残っていない」


その女の名前も覚えていないくらいだ。
人付き合いが苦手な俺が、真っ当なファーストキスを経験している筈もない。
とりあえずしておいたほうがいいだろう、なんだこんなものか、くらいにしか思わなかった。
キスで『愛を語る』なんてことは全くなかったし、友情でキスしたのもごく稀にはあったが、あとは面倒だったから言葉をごまかしたり、嘘を隠したり、ただの挨拶だったり。

勿論、過去だ。
『クラウドに逢うまでは』だ。


「あんたは?」
「俺?」
「そう。あんたの初めて――」


こんな答えでは納得してくれそうもないクラウドに、これ以上深く突っ込まれたくもなかったので、そう訊き返した。
ほんの気まぐれだった。気にもならない……はずだった。
ところが、口に出してみたらなんだかモヤモヤした。
なんというか、こう、『クラウドの最初』っていうのが引っかかるというか……。


「最初のキスは無理矢理だった」


なんだかいやな事を思い出させてしまったのでは、と少し驚いた。
でも、クラウドは普段の無表情からは考えられないくらいに柔らかで、というか、思い出して喜んでいるように見える。


「でも、後から考えたら嫌じゃなかった。その時は驚いただけで、実は嬉しかったのかもな」


本当に幸せそうな顔をする。
……というか。
あんた、たった今俺とキスした直後にそれってマナー違反じゃないのか?
俺のそういう表情を見抜いたのか、勿論今のも嬉しかったぞ、と取ってつけたように彼は言った。

しかし、まあ…。
『初めて』『好きな人と』という思い出は、格別な物なのかもしれない。
俺は、自分の心の狭さを少し反省した。

・・・・・・。
・・・・・・。

反省はした。
が、猛烈に気になるじゃないか!

『好きな人に無理やりキスされて嬉しかった』だと?
何処のどいつだ?男か?女か?
付き合っていたのか?
今はもう別れてるのか?
相手はどんなヤツだ?
いったい、いつごろの話なんだ?
ああ、モヤモヤする。

こう言っては悪いが、クラウドの経験値は低かった。
この世界に来る直前に付き合い始めて、すぐに離れ離れになったとか……ああ、これは結構いい線いってるような気がする。
しかし、それだと何気に相手に未練が残ってたりしていないか?
戻った途端に元サヤとかはご免だ。
まぁ、俺は誰が相手でもクラウドを譲る気はないが。

ほんのりと頬を染めているクラウドに、どうしてもこれだけは訊きたくて口を開いた。


「あんた、本気で好きだったのか?」
「え?ああ、かなり…そう、かもな?」


疑問形にしつつも、いっそう頬を赤らめるクラウド。
なんかさっき反省したばかりなのに、むかついてきた。
くそ!なんで微妙に現在進行形なんだ!?だから、誰だ!?


「でもな、そいつ、むかつく事に」


むかついてるのは俺の方だ。


「全く覚えてなかったんだ、翌日」


何を?


「あれだけきつく抱きしめて、挙句に押し倒してキスしてきたくせに、覚えてないって言ってた。
最悪だと思わないか?」


押し倒した!?キスだけじゃないのか!?
しかも覚えてないって!?それって体のいい言い逃れじゃないのか?
そういう事言って逃げるんだよ、ずるいヤツは!


「…確かに最悪だ」
「うん」
「相手が覚えて無いって、酔ってたからとかそういう事なのか?」
「あー、まぁ…確かに。バッツに散々飲まされてたから、俺が行ったらとっくに潰れてたしな」


へ?バッツ!?


「せっかく介抱してテントまで運んでやったのに、のしかかられて無理矢理ってないだろ。
最初は誰かと間違えてるって思った。
必死で抵抗してたら、そいつ、いきなりピタッと止まって人の上でグースカ寝だしたんだ。
さすがに腹が立って、思いっきり頭を一発殴っておいたけど」


えええ。
ちょっと待て。
いや、ちょっと待ってください。


「起きたら全然覚えてなかったな。平然と『おはようクラウド』だってさ。こっちがびっくりだし、がっくりだ」


あーー、その…。
勘弁してくれ。


「なぁ、すごく酷い男だとは思わないか?スコール」
「……最悪だ」
「だろう」


わかった。降参だ。
全面的に俺が悪かった。
だから。その、やたらに嬉しそうな顔をやめてくれないか。
くそ。

俺の下でくすくす笑いを零すクラウドに、意趣返しのつもりで言う。


「……でもその酷い最悪なヤツが、あんたは好きなんだろう?」
「まぁな。ホントに俺の趣味も『最悪』ってものだ」


どの口がそれを言うんだ、と塞いで。
あとはもう勢いでその柔らかな口唇を貪った。
彼は抵抗するどころか、俺の背に手を回してくれている。

ジワジワと込み上げる甘美な充足感。
やっと続きができそうだと、俺は彼の服に手をかけた。





『四度めのキスは行為の一部』



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