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きっかけ
(同級生)


最初から惚れてたのか、それとも何かあってそうなったのか、思いつかない。
なんとなく気なっていた人間から、傍に居たい人間になり、そうして今ではそれ以上の想いを抱いている。
その事を自覚してから自分はどこか変わっただろうか。



*  *  * 



生徒会の仕事を片付けるために一人残っていたスコールの所に、ティーダと先に帰ったはずのクラウドが一人で戻ってきた。
どうしたのかと訊けば『いや別に…』と言う。
が、さっきから落ち着きが無くスコールの傍らで口を開いては閉じを繰り返している。
何か言いたいのだろうという事は解る。その為にここに戻ってきたのだろうから。

スコールの性格からすれば『用件があるならさっさと言え』と言いたいような状況だ。
だが、目の前のクラウドは普段の落ち着きようとはかけ離れていて、妙に小動物染みて可愛い。もう少し黙って見ていたい気がした。
でも、いつまでもそうしている訳にもいかない。
何よりも、自分の気が散って作業が捗らず、これではまだまだ帰れそうにない。
スコールは手を休めて彼に向き直り、もう一度訊ねることでクラウドの背を押した。


「クラウド。どうかしたのか?」


紡いだ声はひどく優しい。
誰に言われるまでも無く、それをスコール本人が自覚している。


「用があるんだろう?」
「あ、ああ…そうなんだが…」
「なんだ?言いたい事があるなら早く言え」


それでもまだ口ごもるクラウドに話すよう促した。
その口調は少しぶっきらぼうに聞こえるが、その音に柔らかさが失われる事は無かった。
クラウドはふぅと一つ溜息をつき、ようやく決心したように口を開いた。


「怒るなよ?」
「聞いてみなければ解らない」
「まぁ…そうだな。それは、そうなんだけど…。ホントに怒るなよ?」
「…あんた、なんなんだ?話す気があるのか無いのか――」
「あるって。あるからちょっと待て」


スコールがあからさまに眉を寄せてみせると、クラウドは慌ててポケットから封筒を差し出した。
渡されたそれを見る。
淡い色合いの封筒には『スコール様』と書かれているが、その字は目の前の彼のものでは無い。
では誰からだと封筒の裏を見れば、知らない女の名前が書かれていた。


「俺のクラスの女子から預かった」


クラウドの声を聞きながら、スコールは差出人に何の覚えも無いその手紙の封を切って中身を開く。
丁寧に書いたのであろう綺麗な字が並ぶそれは所謂ラブレターというもので、スコールへの想いを綴ったものだった。
それが解ると、スコールは眉間に深いしわを刻んだ。
眉目秀麗、無口でクールな美貌を持つが故に周囲からは勝手に美化されたイメージを持たれがちなスコールだ。
それに対しては、我慢ならないがいい加減もう慣れた。
知らない人間からこんな風に言い寄られる事など珍しくも無い。
だから、愉快ではなくてもそれ自体を無視すれば良いことも解っている。

だが今回は状況が違う。
まったく違う。
その告白の橋を渡したのがクラウドなのだ。
事もあろうに、スコールが想いを自覚したばかりのクラウドだったのだ。
とはいえ、クラウドにしてみればスコールの心の内など知るよしも無いのだから、責めるのは酷というものだ。
しかし、解ってはいても、スコールの心にもくもくと暗雲が湧き出すのは仕方が無いことだった。



「あ!」


おもむろに手紙をゴミ箱に捨てたスコールを見て、クラウドは思わず声を上げた。


「なぜ捨てるんだ」


そう言って捨てたばかりの手紙をゴミ箱から拾い上げるクラウド。自分に怒りが湧いてくるのがわかった。
スコールはそれを抑えて、何事も無かったように机に向き直り、中断していた仕事に手をのばした。


「あんたじゃないが『興味ないね』だ」
「で、でも会ってもいないじゃないか」
「会わなくても解るだろう。そんなものを他人に頼むような臆病者はご免だ」


そうでなくてもあんた以外の奴なんて。


「でも、頼まれたんだ。だからちゃんと受け取ってもらわないと…困る」


クラウドの方を見なくてもどんな顔をしているかわかるが、今初めて彼の顔を見たくないと思った。
いつもは気にもならない彼の妙な頑固さも、今日はただ無遠慮なだけに思えてしまう。
彼の無意識さゆえの残酷な仕打ちが、とても恨めしかった。


「一度は受け取っただろう。そしてちゃんと読みもした。
捨てたのはそういう結果だっただけだ。相手に伝えたいならそのまま伝えてやればいい」
「……スコール」
「わかったわかった。あんたが伝えるのは無理だと言うなら、直接言うから相手を連れて来てくれ」


クラウドが横を向き、小さく溜息をついた。
彼を苛めるつもりは無いのに結果的にそうなってしまっている事が、スコールの不機嫌を更にあおった。

クラウドの事だ。どうせ無理に頼まれて断れなかったのだろう。
そして、スコールがこういうのを嫌がるのを知っているからこそ、言い出すまでに時間もかかったのだろう。

解っている。
解ってはいるのに。
……くそ。

スコールは深く息をついた。
そうして、手紙をしっかりと握りしめたまま立ち尽くすクラウドに向き直って言った。


「なぁ、あんたは俺にどうして欲しいんだ?」
「え?」
「手紙の差出人と付き合って欲しいのか」


そう言われて、クラウドは押し黙った。
どうして欲しいのかなんて、聞かれるとは思っていなかったからだ。
そしていざどうして欲しいかと問われると、もっと困った。
手紙をゴミ箱に捨てられてしまうのは頼まれた身としては困る。
が、だからといってその子の想いが成就する事を祈っているのかと言われれば、そうとも言えない。
むしろスコールの性格を考えれば、申し訳ないがこの結果は予想できたものだった。
それならいったいどうして欲しいのか。


「けっこう、可愛い…子、なんだぞ」


返答に困って、困って、クラウドから出た言葉はそれだった。


「そうか」


それを聞いてスコールは短くそう答えると、クラウドの手から手紙を抜き取ってまたゴミ箱に捨てた。
その一連の動作が珍しく苛ついているように思えて、クラウドは少し目を瞠る。
どうしていいかわからずに、ゴミ箱に捨てられた手紙にしばらく目をやって視線を上げると、睨み付けるようにクラウドを見つめるスコールがいた。


「『俺が好きなのはクラウド・ストライフだ。だからあんたとは付き合えない』とその子に言ってやればいい」


クラウドを睨みつけたまま、スコールはそう言った。
なんだかやけっぱちの様な自分の告白に、苛立ちが募る。

言われて固まったのはクラウドで。
目をパチパチと何度もまばたきさせてスコールを見つめ、そして意味が解ると一気に頬を紅潮させた。
それを見て、下降一途だったスコールの機嫌も少しは上向いた。
ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべてクラウドを見つめる。


「じょ…」
「冗談じゃない」
「お…」
「思い違いでもない」


クラウドの言葉を制止する。
口をパクパクさせる彼の様子に、スコールは満足だった。


「言っておくが、俺は他人の事をこれだけ想って悩んだり考えたりするのも、こんなにも誰かを欲しいと思うのもはじめてだ」


はじめてだから。
はじめてだからこそ。
一度口にしてしまったら引っ込めるような半端な事はしない。
クラウドの心を得るためならどんな努力を惜しむことはない。
中途半端な好意の表し方や、長々と駆け引きなどしていたら、この鈍感なクラウドには伝わらないだろう。
その間に誰かに持って行かれてしまうかもしれない。


「だが、俺だけがあんたを想って焦がれるのもしゃくだからな」


だから、言った。
これで、クラウドはスコールの事を考えずにはいられないだろう。それこそ、四六時中。


「う…」
「嘘は吐かない。少なくともあんたにはな」


有無も言わさず。
はじめての恋の告白は、強引で駆け引きもない。
でも、誰にも邪魔されないこのタイミングで返って良かったのかもしれない。



目の前の視線に捕われて動けずにいるクラウドに、スコールが立ち上がってゆっくりと近づいていく。
その瞳が目前に迫る頃には、ゴミ箱の中の手紙の事などすっかり忘れていた。







END


食われました


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