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2012 87の日



この季節、久しぶりに外で会った。
真っ白いカッターシャツの裾が風にはためいてぱたぱたと振れる。
気だるそうな金髪の少年は、日差しを避けるように狭い木陰に逃げていた。
手に持っている小さな木の棒は、少し前まではその冷たさでもって彼の体温を下げてくれる役割だったのだろう。
が、今は溶けかけの甘い汁によって、いつの間にかべたべたに変わっていた。
クラウドはそれを気に留めることなく、おもむろに本体が1/4ほど残った棒を左手に持ち替え、濡れた右手で前髪をかき上げようとした。
その瞬間、


「何してるんだ、あんた」


はしっとその手首を掴んだのは、輝く陽光に惜しげもなく全身を晒している、同じく白のカッターシャツにかっちり身を包んだ長身の少年だった。
唐突な彼の行動に驚くこともなく、クラウドは無表情のまま隣を見上げる。


「何って?」
「あんた莫迦か」
「夏にアイス食べて何がいけないんだ」
「そうじゃなくて。その手だ。髪がべたつくだろうが」


スコールはゆっくりと、絡めていた指をクラウドの手首から離す。
クラウドが手首まで垂れてきていた甘い滴をぺろりと舐め取ると、スコールの眉間の皺が深くなった。


「夏に髪がべたつくのは普通じゃないのか」
「解ってないな、男のロマンが」
「ロマン?」
「あんたの綺麗な髪がアイスまみれなんて冗談じゃない」


それなら代わりに俺がやってやる、とばかりに汗一つかいていないクラウドの綺麗な金髪をすく彼の仕草に、さすがのクラウドも身を震わせた。だがそれ以上、避けようとはしない。
あんたのロマンはさっぱり解らない、と言って肩を竦めた後、クラウドは視線を左手の融けかけアイスに移した。
残っているそれを、ぐいとスコールの顔面に突き出す。


「いるか?」
「いる」


スコールはアイスを持つクラウドの左手をどけた。
クラウドは困惑気味に眉を寄せるが、スコールは右手首を掴んで指先をぺろりと舐めあげた。


「甘い」
「くすぐったい」


互いに、取り敢えず文句になっていない口調で文句を云うと、人通りを全く気にせずに目線だけを合わせて笑った。


「登校日なのに行かないのか?」
「行こうと思ってた」
「なんで過去形?」
「そういうあんたは?」
「んー…」


クラウドは、食べる途中だったアイスを口に放り込んで、しゃくしゃくと飲み込んだ。


「俺は、重役出勤しようかなと思って」
「…だったらどうして今ここにいるんだ?」
「さあ?」


クラウドはくるりと踵を返すと、学校と反対の方向に足を動かしだした。
スコールが後を追い、隣に並んで歩く。


「暑いな」
「ああ、死にそうだ」
「この暑い中、俺を待っててくれたのか?」
「さあ?」
「それにしても、本当に暑い」
「言うなよ、余計に暑くなる。
でも、そんなこと言う割に…スコールはあんまり汗かいてないだろ」
「あんたが云うな」
「どうするんだ、これから」
「どう、って……」


スコールが意味を図るように横を見るとクラウドはやや俯いていて、髪で表情は窺えない。だが、覗く耳は赤く染まっている。


「ウチのほうが近い」


言って、クラウドのべたつく手をグッと握り、スコールは足早にその場を離れた。




+  +  +



先ほどから無表情が崩れていると自覚はしているが、クラウドどうにもならない。
鼻で空気を吸い込むと、自分の家とは違えど馴染みの深い匂いが体を包む。
余計に身体が疼いて熱くなる。


「…あつ、い」


口を開いたら声が漏れ出てしまうので、唇をぎゅっと強く噛む。
それでも、彼から舌が差し込まれるときは反射的に開いてしまうから、結局意味をなさない。
こういう場合、体温が上がれば上がるほど気持ちよくなれる、とクラウドが知ったのはごく最近だ。
頭がくらくらして感覚が麻痺してきて、快感だけがダイレクトに広がる。
どんなに暑くても滅多に汗をかかないクラウドにとって、それは大変危険なことなのだが、それでもやめられそうになかった。
思わず、熱を吸収しているままのアンバーの髪の毛を掴んで、快楽と呼応するようにひっぱる。


「痛い。やめろはげる」
「はげ、たあんたもッ、いいっ」
「まっったく、嬉しくない」


一層激しく揺さぶられると火照った体内で血液が逆流する。
頭が爆発しそうな気持ちよさのせいでまた、自制を失った口が勝手に開き、嬌声が漏れる。


「はっ…あ、スコ、ルっ」


震える声でわけもなく名前を呼ぶと、耳元でそれに答えられて、思わず笑みが零れた。
きらきら映した汗が弾けとぶ。
もう着ていないも同然になったカッターシャツが、腕に絡まって彼に抱き付けない。
邪魔だ。いやだ。
ああ、スコールの目って獣みたい……食われる……はやく、っ…。







白い天井にふよふよと蚊が泳ぎまわっている。
視線を移動させると一緒に動いて、パチパチと瞬きをすると、やっと消えた。

なぜか、頭に濡れたタオルが乗っている。
横目を動かすと、黒い髪が見えた。なんで黒?ああこっちもなんか濡れてるのか。
少しして漸く、スコールが床に座ってベッドにもたれかかっているのだと解った。シャンプーの匂いが漂ってくる。


「み、ず…」


喉がざらざらしてどうしようもないクラウドがなんとか声を振り絞ってねだると、今の今まで飲んでいたのだろうか、すぐに冷たいミネラルウォーターが差し出された。
背中を向けられたままなのが、なんだかクラウドの気に障った。


「…飲ませて、くれ」
「ふざけるな。あんた我侭がすぎる」


無愛想に云って、スコールが漸く此方を向いた。
切れ長の目が綺麗で心底惚れ惚れしたことは秘密だが…あれ?これって睨まれているのか。


「機嫌悪いのか」
「次から絶対クーラーつけるからな」
「なんで」
「なんでもだ」


そこでクラウドは漸く気がついた。
部屋にエアコンがかかっている事と、スコールの目が心底怒りを含んでいることに。


「なに怒ってるんだ?」
「怒らずにいられるか。あんた途中でくたばっただろ。俺はまだだったんだ!」
「あんたの所為じゃないか」
「違う!あれは脱水症状だ。普段汗かかない奴ほど危ないんだからな!」
「そんなわけ…」
「ある! 正直俺もやばかった。見ろ、このペットボトルの消費量!
あんただってもうペットボトル1本カラにしているんだからな」


寝てる間に飲ませてくれてたんだ、とクラウドはそんなスコールを依然ぼやけた脳で眺めた。
喋れば喋るほどスコールの怒りは増すらしい。
気持ちよくて意識が飛んだのだと思っていたが、スコールの解釈は違うようだ。


「寒い。エアコン嫌いだ」
「知ってる。でも、イく前に気を失ったら意味ないだろ」
「うんだからまだだからもう一回」


クラウドがゆっくり手を伸ばす。
スコールは、盛大に顔を顰めた。


「スコール」
「なんだ」
「その前に水が欲しい。頭くらくらしてる」
「…まったく」


溜め息混じりに云った後、スコールはクラウドの上に身を落とす。
柔らかい唇が触れて、それから冷たい液体が喉を流れた。寝転んでいるから肺に入りそうで少し怖いけれど、もっととねだると彼は欲しいだけ与えてくれる。
重い腕を上げて、クラウドはスコールの背に手を回した。
また、彼の背中がじんわりと汗をかいてくる。


夏は今が真っ盛りだ。






87記念日おめでとうございます!
今年も祝えて嬉しいです。
87バンザイ!



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あきゅろす。
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