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アンドロイドCloudは電気羊の夢を見るか?C



三竦みの金縛り状態から最初に解けたのはセルフィだった。


「は、はっ、はんちょッってば!!
誰、この子っ!?
なんで!?なんでこんな子供、連れ込んでるのーーっ!!
浮気だッ、浮気ッ!!!」
「いや、ちょっと待て!違う、これはっ…!」
「こんな可愛い子とどこでっ!?
ってか、いっくら自分がモテるからって連れ込んじゃうなんてッ!!
はんちょの見境ナシっ!バカー!!」


俺に飛びつかんばかりに、セルフィはがなり立てる。
その時、俺の背中に手を回したままのクラウドが、顔を上げて抑揚のない声でセルフィに言った。


「まぁ、落ち着け。
俺、機械なんだ」


へっ?とセルフィは動きを止めた。
クラウドを見つめるセルフィに、彼は自分の首筋のタトゥーを指差して見せた。


「正真正銘、本物の機械だ」


しばらくクラウドの顔と首元を交互に見て、口をポカンと開けていたセルフィは、ハッと我に返った様にまた怒鳴りだした。


「はっ、はんちょーーッ!!」
「うるさい!今度はなんだッ!?」
「女に不自由はしてない、なんてカッコつけて言っておきながら、セクサロイドなんて買っちゃったの!?
もーっ、信じらんないッ!!」
「ち、ちがーーーうッ!!何言…っ!!」
「はんちょ、見損なったよッ!
見境なさすぎー!!男ってバカ!!」
「だからッ、違うって言ってるだろう!!」

「あんたたち、うるさい。ちょっと黙ってくれ」


クラウドは、手を伸ばしてギャーギャーわめくセルフィの口を塞ぎ、もう片手で俺の襟元を掴んでグイと引っ張ると、口を唇でもって塞いだ。
クラウドの唇は、機械と思えないほど柔らかく温かかった。

部屋には、鳥の意味を成さないピイピイさえずる声だけが響いていた。








「まぁ、落ち着いて、ゆっくり話そう」


いつの間にかその場を仕切っているクラウドは、俺とセルフィと自分の前にお茶を置いた。
先ほど淹れてたお茶は、騒ぎの間のドサクサで零してしまったので、俺が淹れ直した物だ。
クラウドは、カップを取ってコクンとお茶を飲んだ。まるっきり人間に見える。
セルフィはそんなクラウドを目を丸くして見ている。
クラウドはそんな彼女の方をチラとも見ずに、俺に言った。


「とんだ邪魔が入った。
色仕掛け、失敗したじゃないか」
「クラウド?」
「スコール。さっきセルフィが言った事、あながち間違っちゃいないんだ」
「「え?」」


間抜けた声を出す俺とセルフィ。
クラウドは『俺にはちゃんとセクサロイドの機能もついてる。何なら試すか?』と何でもないように言った。
なぜか、俺よりもセルフィの方が慌てて、立ったり座ったりとアワアワしている。


「手、出してくれても構わなかったんだ。
さっきと違って、俺は冷たくなかっただろう?体温、上げておいたから」


確かに、擦り寄られたときも、口を塞がれたときも(キスとは言いたくない)、こいつは温かかった。
だが、そんな事よりも引っかかった事がある。
俺は、ソファーから立ち上がり、横に座るクラウドから数歩分の距離を置いた。


「そんなことより、お前…」
「・・・・・・」
「なんで彼女の名前を知ってる?」


さっき、公園で偶然会って、たまたま連れ帰っただけの機械が。


「ひぇッ、はんちょ…っ!」
「動くな、セルフィ。
後ろからズドン、じゃ洒落にならない」


部屋の空気がビリッと凍った。
セルフィは向かいの席から半分腰を浮かせて、怯えの混じった瞳で身構えている。


「何者だ、あんた」


俺はクラウドを睨みつけて言った。
彼は寛いだままの様子で、またお茶のカップを手に取った。
俺とセルフィの緊迫した空気なんてまるっきり感じていないように、こくりこくりと茶を飲む。飲み終わったマグを見つめながら、指でチンと弾いた。


「正解だ。気づいて貰えてよかった。
スルーされたら帰ろうと思ってたんだ」
「・・・・・・」
「実を言えば、あんたを張ってた。
まさか、お持ち帰りして貰えるとは思ってなかったけど」
「クラウド…俺の質問に答えろ」


セルフィが、クラウドを伺いながらそろそろと俺の後ろに移動してくる。
機械は人間に手出ししてはいけない、という規則はあるが、それが法として守られているかは疑問だ。
俺のライオンハートは隣の部屋だ。この状態で機械と素手でやりあって、勝てる訳は無い。
クラウドはやっと、俺の方を見た。


「何者だ、貴様。何の目的で俺に近づいた?」
「ただの機械だ。名前は、クラウド。目的というか…」


ゴクリ、と生唾を呑む音がした。
俺か、と思ったらセルフィだった。
まぎらわしい。


「あんたに頼みがあるんだ。スコール」




クラウドの綺麗で無表情な顔を見つめながら。
ゴクリ、と。
今度は俺の喉がなった。








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